高瀬正仁『無限解析のはじまり』

高校の数学の問題に対数が出てくるときは、\log |\cdots|と変数部分にやたらと絶対値の記号がついていた印象がある。負の数についての対数の値を定義していないことへの対処だろうけど、それなら「xが負のときは\log x = \log (-x)」と最初から定義しておけばいいのに、と当時思った。
(一応、理屈としては\frac{1}{2}\log(-1) = \log(-1)^2 = \log 1 = 0 より \log(-1) = 0 。だから、\log(-x) = \log (-1 \times x) = \log(-1) + \log x = \log x 。間違っているわけだけど)
高瀬正仁『無限解析のはじまり』の3章を読んでいてそのことを思い出した。

3章「ベルヌーイの等式とオイラーの公式」では、オイラーの論文「負数と虚数の対数に関するライプニッツとベルヌーイの論争」(E168)を取り上げている。ベルヌーイの等式というのは、\frac{\log{\sqrt{-1}}}{\sqrt{-1}} =  \frac{\pi}{2}という式。この式の両辺に\sqrt{-1}をかけて、指数を取って二乗するとオイラーの等式e^{\pi \sqrt{-1}} = -1が得られる。

オイラーは、円の面積が虚数の対数に帰着されたというところに、深遠な関心を寄せていることがわかります。オイラーの数学的関心の中心はあくまでも負数と虚数の対数にあったのですから、eの複素冪指数を作って得られる「オイラーの公式」の方を表に打ち出すのは、本末が転倒していると言わなければなりません。あるいは、こんなふうに言えるかもしれません。すなわち、
 「オイラーの公式」の根源に位置するのはベルヌーイの発見である。
 真に感動に値するのは「オイラーの公式」ではなく、ベルヌーイの等式である。
というふうに。
(高瀬正仁『無限解析のはじまり』ちくま学芸文庫 p.333)

数学史研究に裏打ちされた言葉だけど、でもオイラーの公式オイラーの等式には見た目のわかりやすさとインパクトがあるし、使い勝手も良い。
オイラーの等式e^{\pi \sqrt{-1}} = -1は明解だけど、その逆\pi \sqrt{-1} = \log(-1)には深淵が広がっている。