恩田陸『三月は深き紅の淵を』4章の雑誌掲載版と単行本版の差異

たぶんよく知られていることだけど、恩田陸『三月は深き紅の淵を』の4章は単行本になったときにかなり書き直されている。すでに捨てたと思っていたその4章の雑誌掲載時の切り抜きが出てきたので、大雑把に比較してみる。
4章の基本的な枠組み自体は雑誌でも単行本でも共通していて、だいたい次の3つのパートに分類できる。

  1. 小説を書こうとしている人物が様々なことを考える
  2. 旅行をしている人物が様々なことを考える
  3. 小説の断片

1と2で出てくる小説を巡る随想は、いろいろ付け加わったり削られたり順番が変わっていたりする。ちゃんと比較するのは面倒なのでやらないけど、たとえば少年漫画で一番影響を受けたのは「ケネディ騎士団」と「サイボーグ009」だという話が単行本では消えている。
また、雑誌掲載版では1も2もどちらも「私」の一人称で書かれていたのに対して、単行本では2のパートが三人称「彼女」の語りに変更されている。
そして3のパートが一番変更されている。
単行本版では『麦の海に沈む果実』の原型的な物語が断片的に語られる。一方、雑誌掲載版では『麦の海に沈む果実』の断片も登場するけれど、単行本版よりももっと断片的でどのような話の一部なのかほとんど判らない。かわりに『麦の海に沈む果実』以外の物語の断片が挿入されている。こちらも断片的なので、それだけではどんな話なのかほとんど判らない。今読んでみると断片のいくつかはその後『禁じられた楽園』『ロミオとロミオは永遠に』『ユージニア』「魔術師」(『象と耳鳴り』収録)になっているのがわかる。あと、春日、一貴、泉、景子という名前の出てくる断片、みさ子、けい子、あや子、宮島、野々宮などの名前の出てくる断片があるけど、こちらはちょっと思い当たらないのでその後に書かれた話なのかどうか判らない。