ガロア理論についてのメモ 補遺: 補題の証明
2011-08-02:「ガロア理論についてのメモ」に出てきた二つの補題の証明を書いておく。ただし、前提となる定義などの説明はおおむね省いた。
(あと、補遺2: 基本定理の証明の前置きでもある)
デデキントの補題の証明
拡大とについて、
というもの。つまり
Kの拡大体L、L'について、LからL'への体準同型写像のうちKを固定するようなものの個数は、拡大次数[L/K]以下である。
とくにの場合が重要でその場合、補題1の主張はとなる。これはいくつかの例を調べてみると、確かに成り立っていることが判る。
とりあえずの場合について証明していく。
証明
Lの自己同型写像でKを固定するものが最大でいくつありえるのかを調べていく。
拡大次数をとおいて、LをK上のベクトル空間と考えたときの基底(の一つ)をとする。
L上の自己同型写像は各基底に対する値によって一意に特定される。つまりとが異なる自己同型写像なら
となる。
例えば複素数体C上の自己同型で実数体Rを固定するものは、恒等写像と複素共役写像の二つ。Cの基底をと取ると、はによって、はによって特定される。
示したいことは異なる自己同型が最大でn個しか存在しないことだった。異なるがあったとき
は上の話から全て異なる数ベクトルになる。もしも、単にベクトルとして異なっているだけでなくベクトルとして一次独立であることを示せれば、が最大n個までしか取れないことが判る。
そこで
が成り立っているとする。このとき以外の値が取れなければ一次独立。
Lの任意の要素aは、と書ける。そのため(i行にをかけてを使い書き換え各行を足すことにより)任意のについて
が成り立つことが判る。aにを次々に代入すると、n個の式が得られる。
書き換えれば次のようになる。
一方、最初に立てた式全体にをかけると次の式が得られる。
二つの式の差を取るとk列目は消える。
一方、をうまく選べば必ずとできるので、そのようなを選んでおけば、1列目は消えずに残る。
ここから再帰的に同じ議論を繰り返して列を消していけば、1列目だけを残せる。右辺が0なので、結局が判る(ここの議論は数学的帰納法と実質同じ)。この議論はどの列を最後に残すのかは任意なので、全てのが0でないといけないことになり、線形独立であることが言えた。
n行ベクトルで線形独立なものは最大でn個しか取れないので、異なるはn個以下であることが判った。
これでの場合の証明は終わった。
しかし、ここまでの証明でということはあまり重要でない。の値域をに変えてとしても、がの拡大である限りはそのまま証明が成立する。(つまりと仮定したのは、気分的に単純になっていただけだった)。
(証明終わり)
アルティンの補題の証明
自己同型群の部分群について、
証明
と置く。
デデキントの補題では異なる自己同型写像の個数が拡大次数以下であることを示したが、アルティンの補題ではその逆、拡大次数が自己同型写像の個数以下であることを示す。
そのためかアルティンの補題の証明は、デデキントの補題の証明での基底と同型写像を役割を入れ替えた形でおこなえる。
群の要素をとし、体を体上の線形空間と考えたときの基底をとする(とした)。
ここでとして、次の式を考える(cf. デデキントの補題の証明に出てきた式)。
まずの中にに含まれないものがあるとする。番号を付け替えて、とする。さらにそれぞれをでわったものに置き換える。となる。
ここで、まだに含まれないものが残っているとする。番号を付け替えて、としておく。よって、あるでとなる。このを上の連立式全体に適用する。
n個の自己同型は全て異なるので、順番を入れ替えればと一致する。したがって式の順番を入れ替えれば
となる。なのでである。
元の式との差を取ると、k列目が消える。
ここまでの手順を(デデキントの補題の証明のときと同様に)再帰的に繰り返すと、第1列目だけが残るので、右辺との比較でとなる。しかしこれはと矛盾する。
したがって、「の中にに含まれないものがある」という仮定は間違いだったことが判る。
するとなので、
は
と書き換えられる。は全単射なので、
となり、基底の一次独立性よりとなるので、
は一次独立。
よって、つまりが成立する。
(証明終わり)