どんな読者を想定しているのかよく判らない: 『高木貞治 類体論への旅』

序には

予備知識としては、基本的に高校数学で学ぶもので足りるとして、[…]

と書かれているけど、色々な概念や定理がすごくあっさり説明されてあちこち話が進んでいくので、高校レベルの数学知識で読み進められそうな感じがまったくしない。それどころか大学1、2年レベルの数学(微積分・線形代数複素関数論)に触れたぐらいだと、読めるのは3章までじゃないかと思う。
対話形式で書かれているのも判りやすさにあまり貢献していない。登場時には素数が無限にあることも知らなかった聞き手(生徒役)が、あまりにも簡単に話を理解し都合のよい合いの手を入れすぎる。

4章、5章、6章で抽象的な群環体の話が続く。剰余群とかイデアルとか有限体の拡大とかその他いろいろ、理解して納得するのに苦労しそうな事柄が、すごく簡単な説明だけでどんどん登場する。かなり不親切に感じたけど、もしかしてこれくらいでつまづくような読者ははじめから相手にしていないのかなとも思った。こういう内容を予備知識なしで読めるようなタイプの人が数学科に進むのかも。
8章の内容はだいたい線形代数の範囲のことだけど、書き方のせいかかなり難しく感じる。
9、10、11章も当たり前のように難しい。特に10章。9章はガロア理論を知っていれば難度が下がる。11章は証明を飛ばしても続きは読める。
類体論の説明をしているのは、12章の1節と2節(283〜298ページ)。正確さを念頭において書かれた文章をけなすのは気が引けるけど、それでも内容や書き方をもう少し何とかならなかったのかと思う。 説明があまりにも素っ気なくて、予備知識なしで本文を読んでも全然判らないんじゃないかと思う。

あとこの本に限らずこの双書のいくつかの本(『ゲーデル』の巻以降?)は著者に好きなように書かせすぎなんじゃないかと思う(ゲーデルの巻は途中から根本的におかしく感じて最後まで読めなかった)。

高木貞治 類体論への旅 (双書―大数学者の数学)

高木貞治 類体論への旅 (双書―大数学者の数学)