メモ: 積分と微分形式

「メモ:群のコホモロジー」の5-2.単体的複体のコホモロジー

これを
「内部に穴のない2次元領域(=単連結領域)の境界となる閉曲線Cに対してはF(C)=0となる」
と言い換えると、コーシーの積分定理との類似や積分(微分形式)との関連が見え、それを追求していくとド・ラームコホモロジーにいたる。

と書いた派生で、微分形式についてのメモ。
目次

  1. 入り口
  2. 曲線についての積分
    1. 積分と座標系
    2. 座標系の取り方に依存しない積分
    3. 1次微分形式
    4. 成分表示
    5. 接ベクトル(反変ベクトル)
    6. 付記: 上付きの添字と下付きの添字について
    7. 余接ベクトル場(1次微分形式)の積分と接ベクトル場の積分
  3. 高次元の図形についての積分
    1. 曲面についての積分
    2. 3次元以上の積分
    3. グリーンの定理と外微分
  4. コホモロジーとの関係

1. 入り口

まずコーシーの積分定理を書いてみる。

(コーシーの積分定理)
複素平面上に単連結領域Dがあり、f(z)Dで正則な関数とする。このときDの内部に閉曲線Cをとって積分すると
 \oint_{C} f dz = 0
となる。
この定理で
F(C)= \oint_{C} f dz
と置いてみれば、

内部に穴のない2次元領域(=単連結領域)の境界となる閉曲線Cに対してはF(C)=0となる

と同一の内容になる。
ただし引用に出てくる閉曲線Cn次元の図形の内部に描かれた輪で、一方のコーシーの積分定理に出てくる閉曲線C複素平面上の曲線だという大きな違いがある。
そこで、複素積分ではなく、空間内の曲線についての積分を考えることから始める。

2. 曲線についての積分

2-1. 積分と座標系

空間内で積分を考えるときに困ったことがある。
積分するためには

 \sum_kf(\xi_k) (x_{k+1} - x_k)
のような和を考えて、座標xの分割点x_0,x_1,x_2,\ldotsの幅をどんどん狭くしていく。そのため積分がおこなえるためには、空間には座標が入っている必要がある。しかし空間内の座標の取り方は一通りとは限らない。例えばある空間(ユークリッド空間とは限らない)について、(x,y,z)という座標系と(X,Y,Z)という座標系があったとする。
すると、空間内の点Pの位置で値が決まる関数f(P)は、(x,y,z)の関数f(x,y,z)と考えることもできるし、(X,Y,Z)の関数f(X,Y,Z)と考えることもできる。
このとき例えば
\int_{C} f(x,y,z) dx
という積分
\int_{C} f(X,Y,Z) dX
という積分は、どちらも関数fの曲線Cについての積分だけど、積分の値は異なる。
座標が入っていないとそもそも積分ができない。でも積分として、座標系に依存しないものが欲しい。
曲線の長さを使った積分
\int_{C} f dl
ならば座標系に依存しない積分になるけれど、これは空間に長さが入っている場合にしか考えられないので、もっと都合のいい積分を考えたい。

2-2. 座標系の取り方に依存しない積分

以下3次元の場合(座標系が3つ組からなる場合)を考えるけれど、一般のn次元の場合でもだいたい同様になる。
とりあえず

\int_{C} f(x,y,z) dx
という積分を取り上げて、この積分(X,Y,Z)座標を使ってどう表されるかを考えると
\int_{C} f(x,y,z) dx = \int_{C} \left(f\frac{\partial x}{\partial X}dX + f\frac{\partial x}{\partial Y}dY + f\frac{\partial x}{\partial Z}dZ \right)
となる(式がごちゃごちゃするので右辺側の変数は省略した)。これは1変数のときの変数変換の式
\int f dx = \int f \frac{dx}{dX} dX
を拡張したものと見ることができる。
取り上げた積分では、左辺にはdxだけが出てくるのに対して、右辺にはdX,dY,dZと三つのものが出てきている。そこで考える積分
\int_{C} \left( f(x,y,z) dx +  g(x,y,z) dy  + h(x,y,z) dz \right)
というものに置き換える。この積分の場合、
 \begin{eqnarray} \int_{C} \left(f dx +  g dy  + h dz  \right) & = & \int_{C} ( ( f\frac{\partial x}{\partial X} + g\frac{\partial y}{\partial X} + h\frac{\partial z}{\partial X})dX \\ & & \qquad  + ( f\frac{\partial x}{\partial Y} + g\frac{\partial y}{\partial Y} + h\frac{\partial z}{\partial Y})dY \\ & & \qquad  + ( f\frac{\partial x}{\partial Z} + g\frac{\partial y}{\partial Z} + h\frac{\partial z}{\partial Z})dZ )\end{eqnarray}

という関係が成り立つ。
あるいは添字を使った形にして、(x_1,x_2,x_3)=(x,y,z)(X_1,X_2,X_3)=(X,Y,Z)(f_1,f_2,f_3)=(f,g,h)とすれば、

 \int_{C} \sum_k f_k dx_k = \int_{C} \sum_l \left( \sum_k f_k \frac{\partial x_k}{\partial X_l} \right) dX_l
となる。
いずれにせよ、関数(f_1,f_2,f_3)=(f,g,h)積分は、どの座標系にもとづいて積分するかによって積分値が変わり、ある座標系で考えた積分を別の座標系で見ると(f_1,f_2,f_3)積分するのとは別の形になってしまう。

2-3. 1次微分形式

そこで座標系に依存しない積分をするのに都合のいい

f_1 dx_1 + f_2 dx_2 + f_3 dx_3
というものがあると考える(1次微分形式と呼ばれる)。ここでdx_kというのは通常の関数とは違うことを示す目印のようなもので、「微小の長さ」という意味合いはない。どうしても微小なものを表しているように見えるなら、記号をでっちあげて例えばf_1 \lceil x_1\rceil + f_2 \lceil x_2\rceil + f_3 \lceil x_3\rceilみたいな書き方を採用したって別にかまわない。
このf_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3にはx_1,x_2,x_3という記号が入っているけれど、座標系に依存しない量を表している。
dx_1,dx_2,dx_3だけでなくdX_1,dX_2,dX_3もあって、これらの間には
\begin{eqnarray} dx_1 & = & \frac{\partial x_1}{\partial X_1} dX_1 + \frac{\partial x_1}{\partial X_2}dX_2 +\frac{\partial x_1}{\partial X_3} dX_3  \\ dx_2 & = & \frac{\partial x_2}{\partial X_1} dX_1 + \frac{\partial x_2}{\partial X_2}dX_2 +\frac{\partial x_2}{\partial X_3} dX_3  \\ dx_3 & = & \frac{\partial x_3}{\partial X_1} dX_1 + \frac{\partial x_3}{\partial X_2}dX_2 +\frac{\partial x_3}{\partial X_3} dX_3  \end{eqnarray}
という関係があると考える。するとf_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3は、dX_1,dX_2,dX_3を使って
f_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3 \\ \qquad = \; (\sum_{k}f_k \frac{\partial x_k}{\partial X_1} )dX_1 + (\sum_{k}f_k \frac{\partial x_k}{\partial X_2} )dX_2 + (\sum_{k}f_k \frac{\partial x_k}{\partial X_3} )dX_3
と書き換えることができる(この式は積分の変数変換の式と対応している)。この左辺と右辺はdx_1,dx_2,dx_3を使って表したか、dX_1,dX_2,dX_3を使って表したかが違うだけで、ものとしては同じもの。
f_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3積分する場合は、(x_1,x_2,x_3)座標系のもとで
\int_{C} (f_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3)
を計算する(ここでのdx_1,dx_2,dx_3積分の記号)。この積分(X_1,X_2,X_3)座標系で考えると
\int_{C} \left((\sum_{k}f_k \frac{\partial x_k}{\partial X_1} )dX_1 + (\sum_{k}f_k \frac{\partial x_k}{\partial X_2} )dX_2 + (\sum_{k}f_k \frac{\partial x_k}{\partial X_3} )dX_3\right)
となり、どちらの座標系で積分をしても座標系に関係なく同一の値が出る。このようにf_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3というものを考えることで、座標系に依存しない積分を考えることができる。

2-4. 成分表示

f_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3というのは、点Pでの値を(x_1,x_2,x_3)座標系のもとで成分表示すると

(f_1(P),f_2(P),f_3(P))
と表示され、別の座標系(X_1,X_2,X_3)で成分表示すると

(F_1(P),F_2(P),F_3(P)) = (\sum_{l}f_l \frac{\partial x_l}{\partial X_1}  , \,  \sum_{l}f_l \frac{\partial x_l}{\partial X_2}  , \, \sum_{l}f_l \frac{\partial x_l}{\partial X_3} )_{(P)}
となるようなものだと説明することもできる。ただしf_1 dx_1+ f_2 dx_2 + f_3 dx_3と書けばこれは座標系によらないものを表していることが明確だけど、(f_1,f_2,f_3)と書く場合はどの座標系での成分表示なのか(そもそも微分形式の値を成分表示したものなのか)が判っていないと曖昧な表現になる。
また、成分表示について成り立つ
座標系を(x_1,\ldots,x_n)から(X_1,\ldots,X_n)に移ったときに成分が
F_k = \sum_{l}f_l \frac{\partial x_l}{\partial X_k}
のように変換される。
について、工学・物理系の本では「この性質を満たすものを共変ベクトルと呼ぶ」と言われたりする。共変ベクトルという用語は、微分形式や多様体について書かれた本での余接ベクトルにあたる。
なので1次微分形式というのは「空間の各点に対して余接ベクトル(共変ベクトル)を与える関数」とか「余接ベクトル場を表すもの」などと説明することもできる。
物理での共変ベクトル(共変ベクトル場)として真っ先に出されるものに勾配ベクトルがある。関数fの勾配ベクトルは{\rm grad} fとか\nabla fと書かれる。勾配ベクトルの(x_1,x_2,x_3)座標系での成分表示は(\frac{\partial f}{\partial x_1}, \, \frac{\partial f}{\partial x_2}, \, \frac{\partial f}{\partial x_3})となり、上の成分変換の関係を満たしている。
勾配ベクトルは、微分形式で外微分と呼ばれるものの1次の場合にあたりdfと書かれる。成分表示を使わずに書けば
df = \frac{\partial f}{\partial x_1}dx_1 + \frac{\partial f}{\partial x_2}dx_2 + \frac{\partial f}{\partial x_3}dx_3
となる。
微分形式の積分が座標系に依存しない積分だったのに対して、外微分は座標系に依存しない微分にあたる。そして外微分積分の逆の操作と考えることができる。点aから点bに至る曲線Cについてdf積分すると、
\int_{C} df = f(b)-f(a)
となり、これは通常の積分における
\int_{a}^{b} \frac{df}{dx}dx = f(b)-f(a)
に対応する。
また、これまで使ってきたdx_1,dx_2,dx_3という記号も、x_1,x_2,x_3という関数の外微分を取ったものだったと見ることができる(関数x_1の勾配ベクトル\nabla x_1(x_1,x_2,x_3)座標系で成分表示すると(1,0,0)となる)。

2-5. 接ベクトル(反変ベクトル)

余接ベクトル(共変ベクトル)の対になるものとして接ベクトル(反変ベクトル)がある。
典型的なものは速度ベクトルで、(x_1,x_2,x_3)座標系で考えると、点の軌道が(x_1(t),x_2(t),x_3(t) )だとして、速度ベクトルの成分表示は

(\frac{dx_1}{dt},\, \frac{dx_2}{dt},\, \frac{dx_3}{dt})
となる。成分表示しないで明示的に表す場合
\frac{dx_1}{dt}\frac{\partial}{\partial x_1} + \frac{dx_2}{dt}\frac{\partial}{\partial x_2} +  \frac{dx_3}{dt} \frac{\partial}{\partial x_3}
と書かれる。\frac{\partial}{\partial x_k}という書き方をする理由の一つは、点Pにおける速度ベクトルv_Pが、「関数fを入力すると、fの点Pで速度ベクトルv_Pに沿ったときの変化率\frac{df}{dt}を出力する」
v_P : \; f \mapsto v_P(f) = \frac{df}{dt} = \frac{dx_1}{dt}\frac{\partial f}{\partial x_1} + \frac{dx_2}{dt}\frac{\partial f}{\partial x_2} +  \frac{dx_3}{dt} \frac{\partial f}{\partial x_3}
という役割を持っているからなのだけど、単に接ベクトルを示す目印と考えた方が判りやすいかもしれない。また、\partial / \partial x_k \partial / \partial X_kの間に
\frac{\partial}{\partial X_k} = \sum_{l} \frac{\partial x_l}{\partial X_k} \frac{\partial}{\partial x_l}
という関係があり、これがちょうど偏微分の連鎖律と同じ形になっていることが、この表記を使う別の理由。
接ベクトルは、(x_1,x_2,x_3)座標系での成分表示(a_1,a_2,a_3)(X_1,X_2,X_3)座標系での成分表示(A_1,A_2,A_3)の間に
A_k = \sum_{l} \frac{\partial X_k}{\partial x_l} a_l
という関係があり、これは余接ベクトルにおける
F_k = \sum_{l}f_l \frac{\partial x_l}{\partial X_k}
の関係とは異なっている。

2-6. 付記: 上付きの添字と下付きの添字について

接ベクトルと余接ベクトルとはそれぞれ別物(型が違う)なので、物理系の本のように成分表示を多用した書き方をする場合、接ベクトル(反変ベクトル)の成分は上付きの添字で(a^1,\ldots,a^n)のように書き、余接ベクトル(共変ベクトル)の成分は下付きの添字で(a_1,\ldots,a_n)と書いて区別することが多い。この規約を使う場合、座標の添字も(x^1,\ldots,x^n)のように上に書くと都合がよい。
また、空間に計量(長さと角度)が入っている場合は接ベクトルと余接ベクトルを互いに移し変えることができる。この場合、成分表示でいうと
a_k = \sum_{l} g^{kl}a_l,\qquad a^k = \sum_{l} g_{kl}a^l
のようにして成分の変換がおこなわれる。このため接ベクトル(反変ベクトル)と余接ベクトル(共変ベクトル)を同一視してしまって、同じベクトルの反変成分と共変成分と呼ばれることもある。
さらに、ユークリッド空間で座標系が正規直交座標系のとき、接ベクトルの成分(a^1,\ldots,a^n)と余接ベクトルの成分(a_1,\ldots,a_n)が一致する。このため、正規直交座標系を前提にして話が進められる場合、接ベクトル(反変ベクトル)と余接ベクトル(共変ベクトル)の区別がされないこともある(区別しない場合は、極座標のように正規直交座標系でないものに対しては、各点で正規直交基底を取ってつじつまを合わせることになる)。

2-7. 余接ベクトル場(1次微分形式)の積分と接ベクトル場の積分

座標をパラメータで微分すると接ベクトルが得られ、関数を座標で微分すると余接ベクトルが得られた。これらの微分はどちらも座標系に依存しない微分として定義されている。
余接ベクトル場(1次微分形式)\omegaは、曲線Cに沿っての積分

\int_{C} \omega
を考えることができた。
では接ベクトル場v(P)積分にあたるものは何かというと、微分\frac{d}{ds}したときに、そのベクトル場が得られるような曲線c(積分曲線)を求めることにあたる(sは曲線のパラメータ)。つまり
\frac{dc}{ds}(P)=v(P)
という微分方程式を解いて解曲線を得ることが接ベクトル場の積分にあたる。

3. 高次元の図形についての積分

3-1. 曲面についての積分

1次微分形式を使うことによって、曲線Cについての積分\textstyle{\int_{C}}を考えることができた。すると次は、曲面Sについての(座標系に依存しない)積分を考えたい。
1次微分形式を使った積分の土台には、積分の変換公式

\int f dx = \int f \frac{dx}{dX} dX
があった。曲面についての積分では、2変数での変換公式
 \int f dxdy = \int f \, \left| \frac{\partial(x,y)}{\partial(X,Y)} \right|dXdY
がヒントになる。
まずヤコビ行列式の絶対値をとっていることに注目する。
2次元空間の線形変換の行列式の絶対値は、変換によって図形の面積がどれだけ大きくなるかの拡大率を表している。そして行列式の正負は、線形変換で図形が裏返しになるかどうかを示している(図形が裏返しになる簡単な例はf:\,(x,y)\mapsto(y,x)あるいはf:\,(x,y)\mapsto(-x,y))。
しかし重積分の定義では図形が裏返るかどうかは積分の値に関係しないので、変数変換の公式では絶対値を取って行列式の正負の影響を消している。
したがって、曲面には「向き」が入っていると考えて曲面の向きが積分値に影響するように積分を定義すれば、変換公式で行列式の絶対値を取らなくて良くなる(また曲線についての積分では曲線の向きによって積分の値が逆になるので、曲面についても向きを入れた方が統一的になる)。
そこで図形の向きも考慮することにして、変換公式を
 \int f dxdy = \int f \frac{\partial(x,y)}{\partial(X,Y)} dXdY
という式に変えて考えてみる。
1次のときはfdx_kという形のものを考えたことから類推すると、fdx_kdy_lというものを考えると良さそうだと推測できる(1次のときと同様にこの記号に微小要素という意味合いは無い)。
さらに、1次元空間(座標がひとつだけ)の場合に1次微分形式dxdXの間にdx = \frac{dx}{dX}dXという関係があることに注目すると、2次元空間でのdxdydXdYの間には
 dxdy =  \frac{\partial(x,y)}{\partial(X,Y)} dXdY
の関係があると考えられる。これはヤコビ行列式を書き下すと
 dxdy =  (\frac{\partial x}{\partial X} \frac{\partial y}{\partial Y} - \frac{\partial x}{\partial Y}\frac{\partial y}{\partial X})dXdY
となる。
ここで二つの座標系が(x,y)=(Y,X)の関係にある場合を考える。ヤコビ行列式を計算して、dxdy = -dXdYが得られる。一方、1次微分形式について(dX,dY)=(dy,dx)となるので、dXdY=dydxとなるだろう。これらを合わせると
dxdy = - dydx
という式が出てくる。つまりdxdyの順番を入れ替えると正負がひっくりかえる。これをdx dyではなく
dx \wedge dy
と書くことにして、さらに dx \wedge dyについて調べる。dx,dydX,dYの間に
\begin{eqnarray} dx & = & \frac{\partial x}{\partial X}dX + \frac{\partial x}{\partial Y}dY \\ dy & = & \frac{\partial y}{\partial X}dX + \frac{\partial y}{\partial Y}dY \end{eqnarray}
の関係があるのでこれをdx \wedge dyの代入すると
 dx \wedge dy  =  \frac{\partial x}{\partial X}\frac{\partial y}{\partial X}  dX \wedge dX + \frac{\partial x}{\partial X}\frac{\partial y}{\partial Y} dX \wedge  dY  + \frac{\partial x}{\partial Y}\frac{\partial y}{\partial X}  dY \wedge  dX  + \frac{\partial x}{\partial Y}\frac{\partial y}{\partial Y} dY \wedge   dY
となる(微分形式でないただの関数の部分はそのまま項の前に出せることにする)。dY \wedge dX = - dX \wedge dYdX \wedge dX =0dY \wedge dY = 0となることを使って整理すると、
 dx \wedge dy = (\frac{\partial x}{\partial X}\frac{\partial y}{\partial Y}-\frac{\partial x}{\partial Y}\frac{\partial y}{\partial X} ) dX \wedge dY
となって、これは積分の変数変換の式と全く同じになっている。つまり1次微分形式についての
dx_k = \sum_{l} \frac{\partial x_k}{\partial X_l} dX_l
の関係と、dx_k \wedge dx_lについての
dx_l \wedge dx_k = - dx_k \wedge dx_l
の関係から、2次空間の積分の変換公式が出てくる。
こうした考察と1次微分形式の場合との類推から、
[tex: \sum_{k
というものを考えれば、曲面についての積分で座標系に依存しないものが得られると推測でき、そして実際、座標系に依存しない積分が定義できる。
この
[tex: \sum_{k
は2次微分形式と呼ばれる。これは3次元空間では
f_{12} dx_1 \wedge dx_2 + f_{13} dx_1 \wedge dx_3 + f_{23} dx_2 \wedge dx_3
となり、4次元空間では
f_{12} dx_1 \wedge dx_2 + f_{13} dx_1 \wedge dx_3 + f_{14} dx_1 \wedge dx_4 \\ \qquad + f_{23} dx_2 \wedge dx_3 + f_{24} dx_2 \wedge dx_4 + f_{34} dx_3 \wedge dx_4
となる。

3-2. 3次元以上の積分

曲線についての積分ではdx_kというものが使われ、曲面についての積分ではdx_k \wedge dx_lというものが使われた。
同様に、3次元の図形についての積分ではdx_k \wedge dx_l \wedge dx_mという形のもの(3次微分形式)が使われ、k次元の図形の積分ではk微分形式が使われる。
ただしk微分形式をきちんと定義するのは簡単ではない。例えば入門書的とされるシリーズの本『ベクトル解析30講』は、外積代数(微分形式の定義に使われる)についての9章、10章くらいまでがそれ以降の章よりもずっと難しい。

3-3. グリーンの定理と外微分

1次の微分形式の積分では

\int_{C} df = f(b)-f(a)
という式が成り立っていた。これは「fを外微分したもの(df)を積分したときの値は、図形の端点(点aと点b)でのfの値で決まる」と読むことができる。
この式は、グリーンの定理
  \int_{D} (\frac{\partial g}{\partial x} - \frac{\partial f}{\partial y})dx dy = \int_{\partial D} (fdx + gdy)
と類似している。もし1次微分形式\omega = fdx + gdyの外微分d\omega
d\omega=(\frac{\partial g}{\partial x} - \frac{\partial f}{\partial y})dx \wedge dy
になるなら、グリーンの定理は
  \int_{D} d \omega = \int_{\partial D} \omega
と書け、「\omegaを外微分したものを積分したときの値は、図形の境界での\omegaの値で決まる」。このためには1次微分形式の外微分
d (\sum_k f_k d x_k) = \sum_{k} df_k \wedge d x_k
と定義すれば良い。さらに同様にしてk微分形式の外微分を定義すると、k微分形式\omegak+1次の図形Dについて
  \int_{D} d \omega = \int_{\partial D} \omega
が成り立つ(ストークスの定理)。
補足: コーシーの積分定理
ストークスの定理を使ってコーシーの積分定理を証明してみる(ストークスの定理を経由しているので、最小限必要な条件よりも強い条件を前提にした証明になる)。
複素平面には実軸xと虚軸yによる座標(x,y)が入っていると考えることができる。それとは別の座標(z,\bar{z})z = x +iy,\; \bar{z} = x - iyとして入れると

 \begin{eqnarray} dz &=& dx + i dy \\ d\bar{z} &=& dx - i dy \end{eqnarray}
という関係があり、またx =(z+\bar{z})/2,\quad y = i(\bar{z} - z)/2なので
 \begin{eqnarray}  \frac{\partial f}{\partial z} & = & \frac{1}{2} (\frac{\partial f}{\partial x} - i \frac{\partial f}{\partial y}) \\  \frac{\partial f}{\partial \bar{z}} & = & \frac{1}{2} (\frac{\partial f}{\partial x} + i \frac{\partial f}{\partial y}) \end{eqnarray}
となっている。
複素関数fを実部と虚部に分けてf=r+isと書く(通常はu+ ivが使われるけれど、uvが区別しにくいのでrsとした)。すると
 \frac{\partial f}{\partial \bar{z}}=0 \Leftrightarrow \left\{ \begin{eqnarray} \frac{\partial r}{\partial x} &=& \frac{\partial s}{\partial y } \\ \frac{\partial r}{\partial y} &=& -\frac{\partial s}{\partial x } \end{eqnarray} \right.
となりこの右側はコーシー・リーマンの関係式なので、fが正則であることは\partial f / \partial \bar{z} = 0と表すことができる。
ここまでの話を前提として、正則な関数f積分
\int_{\partial D} f dz
を考える。ストークスの定理より
\int_{\partial D} f dz = \int_D d(fdz)
となる。d(fdz)を書き下すと
 d(fdz) = df\wedge dz = \left(\frac{\partial f}{\partial z }dz  + \frac{\partial f}{\partial \bar{z} }d \bar{z} \right) \wedge dz = \frac{\partial f}{\partial z }dz \wedge dz + \frac{\partial f}{\partial \bar{z} }d \bar{z} \wedge dz
となり、dz\wedge dz =0\frac{\partial f}{\partial \bar{z} }=0(fの正則性)からd(fdz)=0となる。よって
\int_{\partial D} f dz = 0
となり、コーシーの積分定理が導かれた。

4. コホモロジーとの関係

「メモ:群のコホモロジー」5-2.単体的複体のコホモロジーに出てきたこととの関連を見る。

単体的複体の1次コホモロジーH^1(X)を得るために、関数の集合C^1(X), \, Z^1(X), \, B^1(X)を考えた。
まずC^1(X)に含まれる関数というのは、大雑把に言えば曲線Cを入力して数を出力する関数だった。もう少し正確には入力されるのは曲線だけでなく曲線の鎖(曲線に重み付きをつけて和を取ったもの)なのだけど、曲線についての値が決まれば、鎖についての値は線形性から決まってしまう。

そして「曲線Cを入力して数を出力する関数」というのは、空間の積分での対応物を探せば、\omegaを1次微分形式として

F_{\omega}(C) = \int_{C} \omega
が見つかる。
次にZ^1(X)に含まれる関数は、C^1(X)に含まれる関数F(C)のうち、曲面Sの境界\partial SについてはF(\partial S)=0となるものだった。これに対応する積分F_{\omega}(C)のうち、どんな曲面Sについても
F_{\omega}(\partial S) = \int_{\partial S} \omega = 0
となるもの。ところがこれにストークスの定理を使うと
\int_{S} d\omega = 0
となりSは任意の曲面なので、この条件はd\omega = 0となることと等しい。
よってZ^1(X)に含まれる関数に対応するのは、F_{\omega}(C)のうちd\omega = 0であるもの、となる。
最後にB^1(X)に含まれる関数に対応するのは、関数の値が曲線Cの端点abから、
F_{\omega}(C) = \int_{C} \omega = f(b) - f(a)
の形で決まるものになる。これは1次の積分についての関係
\int_{C} df = f(b)-f(a)
を思い出せば「あるf\omega = dfとなる」という条件になる。
まとめると次のようになる。
C^1(X)に対応するのは、\textstyle{F_{\omega}(C) = \int_{C} \omega}という形の関数。
Z^1(X)に対応するのは、 F_{\omega}(C)のうち、d \omega=0となるもの。
B^1(X)に対応するのは、 F_{\omega}(C)のうち、あるfdf = \omegaとなるもの。
さらに積分を取ってしまって、C^1(X)の要素をX上の1次微分形式全体として、
\begin{eqnarray} Z^1(X) & = & \{ \omega \in C^1(X) | d \omega = 0 \} \\ B^1(X) & = & \{ \omega \in C^1(X) | \, \exists f \in C^0(X), \, df = \omega  \} \end{eqnarray}
とすれば、単体的複体についてのZ^1(X),\, B^1(X)と同じ形になる。
さらに同様にしてC^{k}(X)k微分形式の集合とすることでコホモロジーが定義でき、ド・ラームコホモロジーと呼ばれるものが得られる。