「メモ:群のコホモロジー」の5-2.単体的複体のコホモロジーに
これを
「内部に穴のない2次元領域(=単連結領域)の境界となる閉曲線に対してはとなる」
と言い換えると、コーシーの積分定理との類似や積分(微分形式)との関連が見え、それを追求していくとド・ラームコホモロジーにいたる。
と書いた派生で、微分形式についてのメモ。
目次
1. 入り口
まずコーシーの積分定理を書いてみる。
この定理で内部に穴のない2次元領域(=単連結領域)の境界となる閉曲線に対してはとなる
と同一の内容になる。
ただし引用に出てくる閉曲線は次元の図形の内部に描かれた輪で、一方のコーシーの積分定理に出てくる閉曲線は複素平面上の曲線だという大きな違いがある。
そこで、複素積分ではなく、空間内の曲線についての積分を考えることから始める。
2. 曲線についての積分
2-1. 積分と座標系
空間内で積分を考えるときに困ったことがある。
積分するためには
すると、空間内の点の位置で値が決まる関数は、の関数と考えることもできるし、の関数と考えることもできる。
このとき例えば
座標が入っていないとそもそも積分ができない。でも積分として、座標系に依存しないものが欲しい。
曲線の長さを使った積分
2-2. 座標系の取り方に依存しない積分
以下3次元の場合(座標系が3つ組からなる場合)を考えるけれど、一般の次元の場合でもだいたい同様になる。
とりあえず
取り上げた積分では、左辺にはだけが出てくるのに対して、右辺にはと三つのものが出てきている。そこで考える積分を
という関係が成り立つ。
あるいは添字を使った形にして、、、とすれば、
いずれにせよ、関数の積分は、どの座標系にもとづいて積分するかによって積分値が変わり、ある座標系で考えた積分を別の座標系で見るとを積分するのとは別の形になってしまう。
2-3. 1次微分形式
そこで座標系に依存しない積分をするのに都合のいい
このにはという記号が入っているけれど、座標系に依存しない量を表している。
だけでなくもあって、これらの間には
を積分する場合は、座標系のもとで
2-4. 成分表示
というのは、点での値を座標系のもとで成分表示すると
また、成分表示について成り立つ
なので1次微分形式というのは「空間の各点に対して余接ベクトル(共変ベクトル)を与える関数」とか「余接ベクトル場を表すもの」などと説明することもできる。
物理での共変ベクトル(共変ベクトル場)として真っ先に出されるものに勾配ベクトルがある。関数の勾配ベクトルはとかと書かれる。勾配ベクトルの座標系での成分表示はとなり、上の成分変換の関係を満たしている。
勾配ベクトルは、微分形式で外微分と呼ばれるものの1次の場合にあたりと書かれる。成分表示を使わずに書けば
微分形式の積分が座標系に依存しない積分だったのに対して、外微分は座標系に依存しない微分にあたる。そして外微分は積分の逆の操作と考えることができる。点から点に至る曲線についてを積分すると、
また、これまで使ってきたという記号も、という関数の外微分を取ったものだったと見ることができる(関数の勾配ベクトルを座標系で成分表示するととなる)。
2-5. 接ベクトル(反変ベクトル)
余接ベクトル(共変ベクトル)の対になるものとして接ベクトル(反変ベクトル)がある。
典型的なものは速度ベクトルで、座標系で考えると、点の軌道がだとして、速度ベクトルの成分表示は
接ベクトルは、座標系での成分表示と座標系での成分表示の間に
2-6. 付記: 上付きの添字と下付きの添字について
また、空間に計量(長さと角度)が入っている場合は接ベクトルと余接ベクトルを互いに移し変えることができる。この場合、成分表示でいうと
さらに、ユークリッド空間で座標系が正規直交座標系のとき、接ベクトルの成分と余接ベクトルの成分が一致する。このため、正規直交座標系を前提にして話が進められる場合、接ベクトル(反変ベクトル)と余接ベクトル(共変ベクトル)の区別がされないこともある(区別しない場合は、極座標のように正規直交座標系でないものに対しては、各点で正規直交基底を取ってつじつまを合わせることになる)。
3. 高次元の図形についての積分
3-1. 曲面についての積分
1次微分形式を使うことによって、曲線についての積分を考えることができた。すると次は、曲面についての(座標系に依存しない)積分を考えたい。
1次微分形式を使った積分の土台には、積分の変換公式
まずヤコビ行列式の絶対値をとっていることに注目する。
2次元空間の線形変換の行列式の絶対値は、変換によって図形の面積がどれだけ大きくなるかの拡大率を表している。そして行列式の正負は、線形変換で図形が裏返しになるかどうかを示している(図形が裏返しになる簡単な例はあるいは)。
しかし重積分の定義では図形が裏返るかどうかは積分の値に関係しないので、変数変換の公式では絶対値を取って行列式の正負の影響を消している。
したがって、曲面には「向き」が入っていると考えて曲面の向きが積分値に影響するように積分を定義すれば、変換公式で行列式の絶対値を取らなくて良くなる(また曲線についての積分では曲線の向きによって積分の値が逆になるので、曲面についても向きを入れた方が統一的になる)。
そこで図形の向きも考慮することにして、変換公式を
1次のときはという形のものを考えたことから類推すると、というものを考えると良さそうだと推測できる(1次のときと同様にこの記号に微小要素という意味合いは無い)。
さらに、1次元空間(座標がひとつだけ)の場合に1次微分形式との間にという関係があることに注目すると、2次元空間でのとの間には
ここで二つの座標系がの関係にある場合を考える。ヤコビ行列式を計算して、が得られる。一方、1次微分形式についてとなるので、となるだろう。これらを合わせると
こうした考察と1次微分形式の場合との類推から、
というものを考えれば、曲面についての積分で座標系に依存しないものが得られると推測でき、そして実際、座標系に依存しない積分が定義できる。
この
3-2. 3次元以上の積分
曲線についての積分ではというものが使われ、曲面についての積分ではというものが使われた。
同様に、3次元の図形についての積分ではという形のもの(3次微分形式)が使われ、次元の図形の積分では次微分形式が使われる。
ただし次微分形式をきちんと定義するのは簡単ではない。例えば入門書的とされるシリーズの本『ベクトル解析30講』は、外積代数(微分形式の定義に使われる)についての9章、10章くらいまでがそれ以降の章よりもずっと難しい。
3-3. グリーンの定理と外微分
この式は、グリーンの定理
ストークスの定理を使ってコーシーの積分定理を証明してみる(ストークスの定理を経由しているので、最小限必要な条件よりも強い条件を前提にした証明になる)。
複素平面には実軸と虚軸による座標が入っていると考えることができる。それとは別の座標をとして入れると
複素関数を実部と虚部に分けてと書く(通常はが使われるけれど、とが区別しにくいのでととした)。すると
ここまでの話を前提として、正則な関数の積分
4. コホモロジーとの関係
「メモ:群のコホモロジー」5-2.単体的複体のコホモロジーに出てきたこととの関連を見る。
単体的複体の1次コホモロジー群を得るために、関数の集合を考えた。
まずに含まれる関数というのは、大雑把に言えば曲線を入力して数を出力する関数だった。もう少し正確には入力されるのは曲線だけでなく曲線の鎖(曲線に重み付きをつけて和を取ったもの)なのだけど、曲線についての値が決まれば、鎖についての値は線形性から決まってしまう。
そして「曲線を入力して数を出力する関数」というのは、空間の積分での対応物を探せば、を1次微分形式として
次にに含まれる関数は、に含まれる関数のうち、曲面の境界についてはとなるものだった。これに対応する積分はのうち、どんな曲面についても
よってに含まれる関数に対応するのは、のうちであるもの、となる。
最後にに含まれる関数に対応するのは、関数の値が曲線の端点、から、
まとめると次のようになる。
に対応するのは、という形の関数。
に対応するのは、のうち、となるもの。
に対応するのは、のうち、あるでとなるもの。
さらに積分を取ってしまって、の要素を上の1次微分形式全体として、
さらに同様にしてを次微分形式の集合とすることでコホモロジーが定義でき、ド・ラームコホモロジーと呼ばれるものが得られる。