良い本だけどタイトルで損しているような: 加藤和也『フェルマーの最終定理・佐藤-テイト予想解決への道』

タイトルだけみるとかなりレベルの高い専門書という印象を受けるのだけど、実際には前書きに

予備知識をあまり必要としないで理論の全体像を理解していただけるものにすること。[...]証明を書く代わりに、実例を多く提示することで説明をおこなった。

とあるように、一般向け啓蒙書といってもいい内容だった。いやある程度の数式はごく普通に使われているから一般向けというのは苦しいか。
類体論から非可換類体論への発展というがこの本のテーマで、タイトルにあるフェルマーの最終定理はその一要素といった感じなのだけど、それでもフェルマーの最終定理の証明の解説としても判りやすい本だと思う。フェルマーの最終定理を中心におき数論の発展のことは必要な所だけを説明するという書き方とは逆で、非可換類体論の発展という全体を貫く流れがまずあってフェルマーの最終定理の証明もその流れの一部として説明されている。こちらの書き方の方が全体像が把握しやすい気がする。
とここまで書いてきて、判りやすい本だという印象が正しいのか自信がなくなってきた。何だか数論についての断片的知識をあらかじめ持っていたおかげで判りやすいと感じたような気もする。あまり予備知識を持たないで読んだら実際のところ判りやすいのだろうか。文章をここまで書くのに半日ぐらいかかっている今の状態でも判りやすく感じたのだからやっぱり実際にも判りやすいのかもしれない。もうどっちでもいい気がしてきた。