類体論についてのメモ

  1. ガロア拡大
  2. 類体の定義
  3. 類体論の主な定理
  4. エルブラン補題の使われるところ
  5. 文献
  6. 補足: 合同イデアル群についての説明

目次

  1. ガロア拡大
  2. 類体の定義
  3. 類体論の主な定理
  4. エルブランの補題の使われるところ
  5. 文献
  6. 補足: 合同イデアル群についての説明
    1. 数とイデアルのズレ
    2. 単項イデアルとイデアル類群
    3. ヒルベルトの類体
    4. 合同イデアル群
    5. 符号分布

「エルブラン商とエルブランの補題についてのメモ」の補足のようなもの。
エルブラン補題類体論の基本定理「アーベル拡大体は類体である」の証明で使われるので、そのための断片的な類体論の説明。


ガロア拡大と類体の比較からはじめる。

1. ガロア拡大

体の拡大L/Kがあるとする。体の拡大次数は[L:K]と書かれる。
※ 「KLに拡大されること」と「拡大して得られた体L」の両方に対して、「拡大」という言葉やL/Kという記号が使われる。
Lの自己同形写像のうちKの要素は動かさないようなもの全体を{\rm Aut}(L/K)と表すことにする。普通は{\rm Aut}_{K}(L)と書くけど、ここでは添字を使うのをなんとなく避けた。
{\rm Aut}(L/K)は、体の拡大L/Kが持っている対称性、とも解釈できる。
自己同型写像の個数と拡大次数の間にはつねに

 \sharp {\rm Aut}(L/K) \leq [L:K]
の関係がある(\sharp \cdots で集合の要素数を表す)。
ここで自己同型写像の個数が最大限あるとき(=拡大の対称性が最も高いとき)、この拡大をガロア拡大という。つまり
拡大L/Kについて
  \sharp {\rm Aut}(L/K) = [L:K]
が成り立つとき、この拡大をガロア拡大という。
(ガロア拡大と同値になる性質は色々あるので、これ以外の定義も使われる)
L/Kガロア拡大であるとき、{\rm Aut}(L/K){\rm Gal}(L/K)と書かれてガロアと呼ばれる。

L/Kガロア拡大であるとき、拡大L/Kの中間体とガロア{\rm Gal}(L/K)の部分群とが(大小関係を逆転して)対応する、というのがガロア理論の基本的な主張。

  • ガロア拡大のとき次の対応関係がある: L/Kの中間体 ⇔ {\rm Gal}(L/K)の部分群

そしていったんガロア理論の結論が得られたあとでは、ガロア拡大とは「中間体のことが自己同型群{\rm Aut}(L/K)によってよく判るような拡大である」と説明することもできる。
なので「ガロア拡大」の説明として二つの言い方ができる。

ガロア拡大についての2種類の説明:

  • ガロア拡大とは、  \sharp {\rm Aut}(L/K) = [L:K]が成り立つ拡大L/Kのことである。
  • ガロア拡大とは、中間体のことが自己同型群{\rm Aut}(L/K)によってよく判るような拡大L/Kのことである。

また部分群の指数を使うと、ひとつ目の説明は、

と表現することもできる。

これを踏まえて類体論を見る。

2. 類体の説明

類体論で証明される結果をあらかじめ踏まえると、「類体」について次のような3つの説明をすることができる。

類体についての3種類の説明:

  1. 類体とは、あるm \left[I_{m}(K) \; : \;  H_{m}(L/K) \right] = [L:K] となるような拡大体L/Kのことである。
  2. 類体とは、素イデアル(≒素数)の分解の仕方が、合同イデアルHによって判るような拡大体L/Kのことである。
  3. 類体とは、アーベル拡大体L/Kのことである。

このとき、L/K類体である、LK上の類体である、などという。
L/KH_{m}(L/K)に対する類体である(Hに対する類体)、という言い方もする。

(「アーベル拡大」というのは、ガロア拡大で、そのガロア群が可換群(=アーベル群)になるような拡大のこと)
もちろんこれだけ見ても何を言っているのかは全然判らない。
まず、素イデアルや合同イデアル類群や1番目の説明に出てくるmや等式の左辺に出てくる項は代数的整数論に関わるもの。
「代数的整数」の世界では普通の整数の世界のように素因数分解の一意性が成り立つとは限らないので、そのために出てくるのが「イデアル」だと大雑把にとらえておく。代数的整数論では、素数の代わりに「素イデアル」の性質を調べることになる。また正確には、いわゆるイデアルだけでなく「分数イデアル」というのも出てくるのだけど、細かなディテールはごまかすことにする。

「素イデアルの分解の仕方が合同イデアル群によって判る」の説明

2番目の説明に出てくる「素イデアル(≒素数)の分解の仕方が合同イデアル群によって判る」というのは、もっと雑にいうと「素数のことが余りで判る」ということ。
これは次のような性質とも関係している。

  • 素数pが整数数列x^2-aの素因数として現れるかどうかは、素数pを|a|で割った余りまたは|4a|で割った余りで決定される(平方剰余の相互法則から判る)。
  • 素数pがp=x^2+y^2の形で表すことができるかどうかは、pを4で割った余りで決まる。
    • より一般にp=x^2+ay^2の形で表すことができるかどうかは、余りで完全に決まるようなx^2+ay^2とそうでないものがある。余りで完全に決まる場合は類体論の支配する範囲内にある。

「余り」を、数ではなくイデアルに対して考えるために「合同イデアル群」が出てくる。
「合同イデアル群」というのは大雑把にいうと、あるmで割ったときの「余り」に基づいてイデアルを分類して、いくつかの種類を選び出して集めた集合のこと。
なので、2番目の説明は

  • 類体とは、素イデアル(≒素数)の分解の仕方が、あるmで割ったときの「余り」による類別から判るような拡大体のことである。

と言い換えることができる。
それから「素イデアル(≒素数)の分解」というのは次のようなこと。
類体の定義から判るように、類体は体の拡大と関係している。
体がKからLに拡大されたとき、整数(代数的整数)の範囲もO_{K}からO_{L}に広がる。するとO_{K}ではそれ以上分解されなかった素数や素イデアルが、O_{L}では分解されてしまうということが起こる。例えばK=\mathbb{Q}素数5は、L=\mathbb{Q}(\sqrt{-2})では素数ではなくなって5=(1+\sqrt{-2})(1-\sqrt{-2})と分解される。
体を拡大したときに素数や素イデアルがどう分解されるのか、というは代数的整数論で知りたい大事なことのひとつ。
そして類体の説明によれば、類体では素イデアルの分解の仕方が「余り」によって決まる。

素数の分解と余りによる類別の例

例としてここでは素イデアルではなく素数の分解を考える。

K=\mathbb{Q},\, L=\mathbb{Q}(\sqrt{-3})とする。
K=\mathbb{Q}の整数は普通の整数 \mathbb{Z}になり、L=\mathbb{Q}(\sqrt{-3})の整数はアイゼンシュタイン整数\mathbb{Z}[\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}]= \mathbb{Z}[\omega]になっている。
整数\mathbb{Z}素数(つまり普通の素数)のうち、3で割ったとき1余る素数は、アイゼンシュタイン整数の世界に移ると二つの素数に分解する。
 \begin{eqnarray} 7=2\cdot3+1 & = & (1+3\omega)(1+3\omega^2) \\ 13=4\cdot 3+1 &=& (1+4\omega)(1+4\omega^2) \\ 19=6\cdot 3 + 1 &=& (2-3\omega)(2-3\omega^2) \\ 29=7\cdot4+1 &=& (1+6\omega)(1+6\omega^2) \\ & \vdots & \end{eqnarray}
一方、3で割った余りが2の素数は、アイゼンシュタイン整数の世界でも分解せず素数のまま。
また3で割った余りによる分類で特殊な位置にある素数3は、特殊な分解の仕方(分岐)をする。
3=(1+2\omega)(1+2\omega^2)= -(1+2\omega)^2
この場合、m=3として

  • I_{m}(\mathbb{Q}) …… 3と互いに素な数(=3で割ったとき余りが1か2になる数)
  • H_{m}(\mathbb{Q}(\sqrt{-3})/\mathbb{Q}) …… 3で割ったとき余りが1になる数

となる(ただし本当は数ではなくイデアルで考えるので、これは実際には正しくなくてイデアルによる形に言い直す必要がある)。

次に、K=\mathbb{Q}, \; L=\mathbb{Q}(\sqrt{-1})の場合を考える。すると、整数\mathbb{Z}素数(普通の素数)のうち、4で割った余りが1の素数ガウス整数\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]の世界では二つの素数に分解し、4で割って3余る素数ガウス素数の世界でも素数のままになる。2は特殊な分解をする。
 \begin{eqnarray} 2 &=&  -\sqrt{-1}(1+\sqrt{-1})^2 \\ 5 = 1\cdot 4 +1 &=& (1+2\sqrt{-1})(1-2\sqrt{-1}) \\  13 = 3\cdot 4 +1 &=& (2+3\sqrt{-1})(2-3\sqrt{-1}) \\  17 = 4\cdot 4 +1 &=& (1+4\sqrt{-1})(1-4\sqrt{-1}) \\  29 = 7\cdot 4 +1 &=& (2+5\sqrt{-1})(2-5\sqrt{-1}) \\ & \vdots & \end{eqnarray}
この場合は、m=4で

  • I_{m}(\mathbb{Q}) …… 4と互いに素な数(=4で割ったとき余りが1か3になる数)
  • H_{m}(\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}) …… 4で割ったとき余りが1になる数

となる。
このように素数の分解の様子が余りで決まる特別な拡大体が類体なので、\mathbb{Q}(\sqrt{-3})\mathbb{Q}(\sqrt{-1})は、\mathbb{Q}上の類体になっている。

ただしこれらの例では素因数分解の一意性が成り立っているけれど、一般には素因数分解の一意性は成り立たなくなるので、実際に類体を考える場合は、数ではなく「イデアル」を使って、素数ではなく「素イデアル」の分解を考える。
また「余りによる類別」というのも、イデアルについて考える場合は数のときよりも複雑なことをしないといけなくなる(数とイデアルの両方が関わりさらに符号分布(無限素点)というものも考える必要がある)。

※ 余りだけでは分解の仕方が決まらないような拡大は類体論では扱えない。そのような場合についての話は、加藤和也『フェルマーの最終定理・佐藤‐テイト予想解決への道』、平松豊一『数論を学ぶ人のための相互法則入門』で扱われている。

3. 類体論の主な定理

類体とは次のようなものだった。

類体についての3種類の説明:

  1. 類体とは、あるm \left[I_{m}(K) \; : \;  H_{m}(L/K) \right] = [L:K] となるような拡大体L/Kのことである。
  2. 類体とは、素イデアル(≒素数)の分解の仕方が、合同イデアルHによって(≒ あるmで割ったときの「余り」による類別で)判るような拡大体L/Kのことである。
  3. 類体とは、アーベル拡大体L/Kのことである。

もっと短く言えば、類体とは、(1)ある等式をみたす拡大体のことであり、(2)素イデアルの分解の仕方が「余り」で判る拡大体のことであり、(3)アーベル拡大体のことである。
類体論を証明する上では、(1)を類体の定義として、

  • 基本定理: アーベル拡大体は類体である。
  • 分解定理: 類体では、素イデアルの分解の仕方は合同イデアルH_{m}(L/K)によって定まる。
    (特に合同イデアル群に含まれる素イデアルp \in H_{m}(L/K)は「完全分解」する(体の拡大次数個の異なる素イデアルに分解する))

が証明される(さらに類体論の他の結果も使って(1)と(2)と(3)が同値性が示される)。
類体は、他にもいろいろな性質を持っている。
特に重要(で証明がたいへん)なのは、同型定理、一般相互法則、存在定理など。

  • 同型定理: L/Kが、H_{m}(L/K)に対する類体であるとき、{\rm Gal}(L/K) \; \simeq \; I_{m}(K)/H_{m}(L/K)が成り立つ。

つまり素イデアルの分解法則のことを教えてくれるI_{m}(K)H_{m}(L/K)は、類体のガロア群のことも教えてくれる。
さらに同型定理を精密化した次が成り立つ。

これだけだと一般相互法則の重要性は見えてこないけれど、これから分解定理が導かれるし、もし一般相互法則の証明に同型定理を使っていないなら、同型定理も証明される。また名前が示すように、巾乗剰余の相互法則も一般相互法則を使って証明できる。

  • 存在定理: 合同イデアルHを任意にとったとき、それに対する類体が必ず存在する。

ここまで合同イデアル群について具体的な説明をしていないけれど、とりあえず次のようなもの。
任意にmを選ぶとI_{m}(K)と(ここで初登場の)S_{m}(K)という群が定まる(このS_{m}(K)によって、mで割った余りによるもっとも細かいイデアル類別がなされる)。
(I_{m}(K)S_{m}(K)が群であるためには、単なるイデアルだけでなく「分数イデアル」も含めて考えないといけない。すでにいろいろとごまかして書いているけれど一応の注意)
このときI_{m}(K) \supseteq H \supseteq S_{m}(K)となる群Hを合同イデアル群という。類体の定義に出てくるH_{m}(L/K)は必ず合同イデアル群になる。
存在定理は、任意にKを取って、素イデアルの分解の仕方を合同類別によって指定したとき(つまり分解の仕方を、割るmとそれに基づく類別Hによって指定したとき)に、その分解の仕方をする拡大体Lが必ず存在することを主張している、と考えることができる(さらにそのような分解をする拡大体は唯一であることも類体論から出る)。
ただし存在定理は「存在する」と言っているだけで、類体Lが具体的にどの体なのかについては何も言ってくれない。

4. エルブラン補題の使われるところ

ようやく本題。
類体論の証明で大変な部分は、おおむね

  • 基本定理
  • 同型定理、一般相互法則
  • 存在定理

になる。エルブラン補題は、基本定理「アーベル拡大は類体である」を証明するときに使われる。
類体の定義に戻れば、基本定理は次のような主張になる。

L/Kがアーベル拡大なら、あるm
 \left[I_{m}(K) \; : \;  H_{m}(L/K) \right] = [L:K]
となる。
この等式は次の二つの不等式から導かれる。

  • ガロア拡大L/Kに対して常に、
     \left[I_{m}(K) \; : \;  H_{m}(L/K) \right] \leq [L:K]
    となる(第2不等式、基本不等式)。
  • アーベル拡大L/Kでは、 \left[I_{m}(K) \; : \;  H_{m}(L/K) \right]を最大にするmで、
     \left[I_{m}(K) \; : \;  H_{m}(L/K) \right] \geq [L:K]
    となる(第1不等式)。

ここで「第2」と「第1」の付け方は歴史的な事情による。
第2不等式はゼータ関数を使って解析的に証明される。
一方、第1不等式は、合同イデアル群や単数群についてくわしく調べることによって証明される。エルブラン補題は、この第1不等式の証明で使われる(高木貞治『代数的整数論』では、補題を使ってもなお不等式の証明に20ページ近くかかっている)。

以上、本題終わり。

5. 文献

類体論は最初は、高木貞治『代数的整数論』のようにイデアルを使って述べられていたけれど、今ではイデアルではなくイデールを使って述べられることが多い。
イデアルとイデールは次のような感じで対応している。

  • イデアル ⇔ 有限素点 ⇔ (狭義の)局所体 (実数体複素数体は含めない)
  • イデアル+符号分布 ⇔ 素点(付値の同値類)(有限素点+無限素点) ⇔ 局所体
  • イデアル(素イデアルを有限個掛け合わせたもの)+符号分布 ⇔ イデール(局所体を(有限的な制限付きで)直積して作った集合、の要素)

でもここではイデールではなく古典的にイデアル類体論を扱っているもの。

6. 補足: 合同イデアル群についての説明

何度も「合同イデアル群」という言葉が出てきているので一応の説明を書いておく。詳細はかなりごまかすけれど。

6-1. 数とイデアルのズレ

代数的整数論では、普通の整数(有理数\mathbb{Q}に含まれる代数的整数)\mathbb{Z}だけでなく、「整数」の範囲を広げて、さまざまな代数体Kに含まれる代数的整数O_{K}を研究対象とする。
代数的整数環O_{K}では素因数分解の一意性は一般には成り立たなくなるので(成り立つこともある)、数ではなくイデアルの分解(素イデアル分解)を考える。数からイデアルの世界に移れば、素因数分解の一意性の代わりに素イデアル分解の一意性が成り立ってくれる。
そしてイデアルが導入されると、数とイデアルとの間にどのくらい「ズレ」があるかを知ることが重要の問題になる。
例えば普通の整数\mathbb{Z}ガウス整数\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]やアイゼンシュタイン整数\mathbb{Z}[\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}]では、素因数分解の一意性も素イデアル分解の一意性もどちらも成り立つので、数とイデアルとのズレは小さい。しかし一般には素因数分解の一意性は成り立つとは限らない(一方、素イデアル分解の一意性は常に成り立っている)。そのようなO_{K}では、数とイデアルとのズレが大きいと考えられる。
このような数とイデアルのズレのことをよく知るというのが、代数的整数論の課題のひとつになる。
このズレは特に「イデアル類群C(K)というものに現れるので、その性質を知ることが重要な問題になる(イデアル類群は「ideal Class group」なので記号としてCやClが使われる)。
このイデアル類群C(K)というのは、イデアル全体I(K)を単項イデアルP(K)というものを使って分類して作った群C(K) = I(K)/P(K)で、分類の個数(類数と呼ばれる)が大きいほど、数とイデアルの「ズレ」が大きいと考えられる。
逆にイデアル全体がひとつの種類に分類されてしまうとき(すなわち類数が1のとき)は、数とイデアルの「ズレ」は最も小さくて、素因数分解の一意性が成り立つ。

6-2. 単項イデアルイデアル類群

イデアル類群C(K)についてもう少し詳しく説明する。

O_{K}イデアル全体(正確には分数イデアル全体)をI(K)と書くのだった。
そのI(K)の要素のなかには、数に「近い」タイプのイデアルが存在する。それはa \in O_{K}を使って(a)と書ける種類のイデアルで、「単項イデアル」と呼ばれる。この(a)の記号の意味は説明しない。そもそもイデアルが何なのかの説明していないけど(→ 「素因数分解の一意性とイデアルについて」)。

イデアルI(K)のうち単項イデアル全体はP(K)と表され、単項イデアル群と呼ばれる(単項イデアルは「主イデアル」(Principal ideal)とも呼ばれるので記号にPが使われる)。これについて当然

I(K) \supseteq P(K)
となっている。
ところがO_{K}として例えば普通の整数やガウス整数やアイゼンシュタイン整数を取ると、I(K) = P(K)となる。これら3つの場合に限らず
I(K) = P(K)
となる場合は、数とイデアルの両方で分解の一意性が成り立つ。つまりI(K) = P(K)のときは、数とイデアルのズレは小さいと考えられる(しかし例えば(a)=(-a)なので、たとえI(K) = P(K)であっても数とイデアルにはズレがある)。
逆に言えば、イデアル全体I(K)と単項イデアルP(K)との差が大きいほど、数とイデアルのズレが大きいと考えられる。そこで単項イデアルP(K)を使ってI(K)の要素たちを分類する。
次のようにする。ふたつのイデアルa, b \in I(K)が同じ類に属するのは、それぞれに単項イデアルをかけて等しくできるとき、つまり(\alpha)a = (\beta)bとなる\alpha,\beta \in O_{K}があるときだと決める。
この類別関係によってI(K)の要素を分類したものはI(K)/P(K)と書かれる。この集合はP(K)単位元とする群と考えることができるので、「イデアル類群」と呼んでC(K)と書かれる。よって
C(K) = I(K)/P(K)
となる。

6-3. ヒルベルトの類体

ヒルベルトが考えた類体(絶対類体、ヒルベルト類体)L/Kは、

ような拡大体だった(この性質だけでなく他の性質も予想した)。
通常の類体との比較でいうと、K上の絶対類体L

  • m=(1)
  • I_{m}(K)=I(K)
  • H_{m}(L/K)=P(K)
  •  \left[I(K) \; : \;  P(K) \right]   \, = \,  [L:K]

という類体になる(1で割って分類しているので、「余り」による分類が関係してこない)。

類体論の分解定理によれば、素イデアルの分解の仕方はP(K)によって決まる。これはイデアル類群C(K) = I(K)/P(K)の類別で決まると言うのと同じことになる。
また同型定理から、{\rm Gal}(L/K) \, \simeq \,I(K)/P(K) = C(K)となる。

6-4. 合同イデアル

イデアル全体I(K)は単項イデアルP(K)によって類別することができて、これらを使って特殊な種類の類体(絶対類体)を考えることができた。
でも一般の類体を考えるには、もっと細かな類別が必要で、そのためにP(K)をさらに「余り」によって細分する。余りで細分するために、イデアルmを取って、数に対する合同関係

a \equiv b \, \pmod m
を利用する(ここでa,bイデアルではなく数)。
次のようにする。
まずI(K)に含まれるイデアルのうち、mと互いに素なものだけを残してI_{m}(K)とする。
同様にP(K)に含まれるイデアル(すなわち単項イデアル)のうち、mと互いに素なものだけを残してP_{m}(K)とする。

  •  I_{m}(K) \, = \, \{x \in I(K) \, | \, x \perp m \}
  •  P_{m}(K) \, = \, \{x \in P(K) \, |\, x \perp m \} \, = \,  \{ \, (a) \, | \, a \in O_{K}, \; (a) \perp  m \}

この操作によってイデアルを取り除いても、分類の個数は変わらず、

I(K)/P(K) \; \simeq \; I_{m}(K)/P_{m}(K)
が成り立っている。
ここからP_{m}(K)をさらに細分する。
P_{m}(K)は、O_{K}の任意の数から単項イデアルをまず作って、それからmと素なものを残している。それを変更して、単項イデアルを作るときに、特定の数だけを使うようにする。
具体的には、mで割った余りが1になる数だけを使って単項イデアルを作る。

  •  S_{m}(K) \, = \, \left\{ \, (a) \, | \, a \in O_{K}, \, a \equiv 1 \, \pmod m \right\}

このときmと素という条件は自動的に満たされて、 P_{m}(K) \, \supseteq \, S_{m}(K)となる。
この集合はシュトラール群(Strahl、英語だとray)というのだけど、どういうニュアンスでこの名前なのかは判らない。
名前はともかく、このようにしてP_{m}(K)よりももっと細かいS_{m}(K)が得られた。
そしてこのとき

I_{m}(K) \, \supseteq \, H \, \supseteq \, S_{m}(K)
を満たす群H合同イデアルという。このHS_{m}(K)によって分類されたものから特定の種類を拾い上げ集めたものと考えることができる(ただし集めたもの全体が群になっていないといけないので、拾い上げる種類の選び方には制約がかかる)。
そしてKの素イデアル分解の仕方が合同イデアルHで判るような拡大体L/Kを、Hに対する類体というのだった。

6-5. 符号分布

こうして合同イデアル群が一応説明されたのだけど、まだ問題がある。
例えばK=\mathbb{Q}, \; m=(10)とする。すると、10で割った余りのうち、10と互いに素なものは1、3、7、9なので、O_{\mathbb{Q}}=\mathbb{Z}イデアルも4通りに分類されると考えたくなる。
でも、-9を10で割った余りは1なので-9と1は同じ種類になる。なので、それらが作るイデアル(-9)と(1)も同じ種類に分類される。そして(9)と(-9)は同じイデアルなので、結局のところ(9)と(1)が同じ種類に分類される。同じように考えて(3)と(7)も同じ種類になるので、イデアルの分類は4通りではなく2通りになってしまう。
このように数からイデアルに移るところで、分類が荒くなっている。
そのため、さらに「符号分布」という条件も付け加えて考える(符号条件は「無限素点」とも呼ばれる)。この符号分布というのは、

 S_{m}(K) \, = \, \left\{ \, (a) \, | \, a \in O_{K}, \, a \equiv 1 \, \pmod m \right\}
  a \in O_{K}, \, a \equiv 1 \, \pmod m
の部分に、「aは正」のような形で付け加える(一般にはもう少し面倒な条件になる)。符号分布条件を加えることによって、単にイデアルで割った余りを考えるよりもさらに細かい類別が得られる。
そして記号を一般化して、mという記号は、単にイデアルを表しているのではなく、符号分布についての条件も含んでいるものとして使われる。