目次
- クンマー拡大
- ヒルベルトの定理90
- 群のコホモロジーの一歩手前
- 群のコホモロジー その1
1. クンマー拡大
が
次の巡回拡大で、
が1の原始
乗根
を含んでいるとき、うまく
を選んで
とできる(この拡大はクンマー拡大と呼ばれるものの一番簡単な場合)。
証明は次のようにおこなわれる。
(証明)

が巡回拡大なので、ある

で、

と書ける。これを踏まえて
という式(
ラグランジュ・リ
ゾルベントあるいはそれを一般化したもの)を考える。

となる

を選んで

とおく。本当は

となる

が取れることを証明するのも重要なのだけど、ここでは略す。

を計算すると
となる。
このことから

がわかり、

や

となることが出る(詳細は略)ので、

として

となる。(証明終わり)
※この文章ではこの証明そのものが重要ではないので、証明の後半部分は省略した。
この証明の副産物として、1の
乗根
が
あるいは
と書けることが判る。つまり次のことが成り立っている。

が

次の巡回拡大で、

が1の原始

乗根

を含んでいるならば、ある

により
となる。
これは証明の副産物というよりも、むしろこちらがより基本的なもので、これを使って

を証明したと考えることもできる。
そしてこのことを1の

乗根以外に拡張したものが
ヒルベルトの定理90になる(この名前は
ヒルベルトの報文(Zahlbericht)での定理番号から)。
(補足)
という式は一見すると馴染みがないけれど、高校生(中学生?)で習う
2次方程式の解の公式の背後にも隠れている。
単純な場合を考えて係数

は
有理数として、
2次方程式
をとる(これは
有理数の範囲では解けないとする)。この方程式の解を

として、
と置けば、

は2次の巡回拡大となる(2次の拡大は必ず巡回拡大)。
ガロア群は

で、

は

で決まる
写像。

とすると
となる。上の証明によればこの

は、

で、

となる。

を計算してみると
となっている。
なので、

を使えば、あとは四則演算で

が得られることになる。そして実際、

と四則演算によって
2次方程式の解の公式が作られている。(補足終わり)
ヒルベルトの定理90には相対ノルムが出てくるので、必要な性質を書いておくと、

の
ガロア群が

のとき、

の

のついての相対ノルム

は
となる。特に

の場合、

に対してつねに

なので
となる。
1の原始

乗根

が

なら、

次の拡大

に対して
となる。そして1の

乗根に限らず

となる

について成り立つことを言うのが
ヒルベルトの定理90。比較のために、前出の1の

乗根についての命題と並べてみる。

が

次の巡回拡大で、

が1の原始

乗根

を含んでいるならば、ある

により
となる。
(
ヒルベルトの定理90)

が

次の巡回拡大で、

が

ならば、ある

により
となる。
証明も類似のものになる。クンマー拡大での証明では、1の

乗根を使って
とした。ここでの

の部分を
に置き換えて、
とする(

ならば

となるので、

は1の

乗根を使って定義した

を含んでいる)。

の性質を調べておく。まず
という性質が成り立っている。移項すると
と書くこともできる。
また

となることから

ならば、
が成り立つ。これらを踏まえて証明をおこなう。
(証明)

として、

を計算する。
となるので、
となる。したがって、ある

により
となることがわかった。(証明終わり)
ヒルベルトの定理90の証明では
を計算したけれど、これと同様のやりかたで
を計算すると
となるので、ある

で
と書けることが出てくる。この計算では、

が
を満たすということを使って、ある
で
と書けることを出している。
このことはさらに一般化されて成り立つ。
であることと

ならば、
ということを踏まえて、関数

を

と書いてみる。
すると関数

が満たしていた性質
は、

では
となる。そして先ほどの計算では、

についてこの性質(と、適切な

が取れるために

であること)しか使っていないので次が成り立つ。
巡回拡大

の
ガロア群

から

への関数

が、どの

についても
を満たしているなら、ある

で
と書ける。
さらにこれは巡回拡大以外にも拡張されて次が成り立つ。
ガロア拡大
の
ガロア群

から

への関数

が、どの

についても
を満たしているなら、ある

で
と書ける。
また加法についても同様のことが成り立つ。
ガロア拡大
の
ガロア群

から

への関数

が、どの

についても
を満たしているなら、ある

で
と書ける。
これら(あるいはこれらをコホモロジーの言葉で言い換えたもの)もヒルベルトの定理90と呼ばれることがある。
証明はこれまでのものとほとんど変わらない。
(証明)
とおいて、

を計算すると
となる。よって、ある

で、
と書ける。(証明終わり)
そして、ここに登場した
を満たす。
あるいは同じことだけど、
となる。
を
が1次のコサイクルであること
の定義とし、
- ある
で、
と書ける。
を
が1次のコバウンダリーサイクルであること
の定義とすることにより、1次のコホモロジー群
が登場することになる。
加法についても同様に
と定義される。
前節の話をコホモロジーの言葉で言い換えてみる。
加群
と写像
の系列
があり、各

について

となっていれば
コホモロジー
が定義できる。
ここで前節の結果を参照して、

として
写像の系列
を
で定義してみる。ラムダ記法で書けば
となる。この

を使うと、前節の最後に出てきた

を満たす
は「

」と表せ、
ある

で、

と書ける
は「ある

で

」と表すことができる。
これをコサイクル

とコ
バウンダリーサイクル

で表せば
となる。
これを使って前節の結果(
ヒルベルトの定理90を一般化したもの)の加法の場合を言い換えると、

ならば
となり、これはさらに
ということになる。乗法については
となる。これは元々の
ヒルベルトの定理90を一般化し
コホモロジーの言葉で整理したものと見ることもできるし、逆にこの定理が先にあると考えて、ここまでの話を逆向きにたどることで特殊な定理が証明されていくと見ることもできる。
2次以上については系列
を考えて
と定義していくと、

を満たす系列になる。
これにより
コホモロジー群が

と定義される。
さらに、
と定義すると

となるので、系列をひとつ伸ばすことができる。
メモ: 群のコホモロジーに続く