電磁気学における磁場BとHの関係(その1)

磁場のBとHの違いを説明する場合、たいていは

  • 磁化の影響を取り込んで補正したことによる違い。または、
  • 磁化をどうモデル化したか(磁気双極子or微小ループ電流)による違い。

の問題として説明される。
でも、たとえ磁化を一切扱わなくても、概念的には区別し得る。
この「その1」では、磁化(磁石)のことを考えないでも生じる違いを見る。


(注: 普通Hを「磁場」と呼びBを「磁束密度」と呼んで、またEを「電場」、Dを「電束密度」と呼ぶけど、この文章では、「磁束密度」「電束密度」という言葉は使わず、HとBをどちらも「磁場」と呼び、EとDをどちらも「電場」と呼ぶことにする)

1. 電磁場の二面性

電磁気学の本の初めの辺りに、場の概念の説明として、よく次のような説明が出てくる。

離れた距離に2つの電荷があった時、引力や斥力が働く。また電流を流した導線同士の間にも引力や斥力が働く。これに対して、近接作用の考え方では、離れた電荷や電流の間に直接的に力が働くのではなく、

  1. まず、電荷や電流の周囲に電場・磁場が作られる。そして
  2. 電場・磁場の中に置かれた電荷や電流に力が働く。

という2段階で力が生じると考える。

つまり、電磁場と電荷・電流の間には、

  • 電荷・電流が場を作る (源と場の関係)
  • 場が電荷・電流に力を与える (場と力の関係)

の2つの関係性がある。そしてこのことから、場の大きさ・強さを考えるときにも2つの見方が取れることになり、EとD、BとHの違いが生じる。

1.1. 電場EとD

まず電場E、Dについて。
クーロン力は、

  • F \propto \frac{q_1 q_2}{r^2}

のように働く。
そこで、場と力の関係から見た電場Eを、電荷qに働く力がFのときに

  •  F = qE

となるように大きさを定める。一方、源と場の関係から見た電場Dは、電荷qが距離rだけ離れた位置に作る電場が

  •  D= \frac{1}{4\pi}\frac{q}{r^2} (有理単位系: SIなど)
  •  D= \frac{q}{r^2} (非有理単位系: cgs単位系など)

となるようにする。電荷密度ρとの関係でいえば、

  •  {\rm div}\,{D} = \rho (有理単位系)
  •  {\rm div}\,{D} = 4\pi\rho (非有理単位系)

となる。そしてEとDの関係を

  •  {D} = \epsilon_0 {E}

と書く。
単位を考えると、

となる。

1.2. 磁場BとH

磁場BとHについても同様になる。
距離rだけ離れた2本の直線導線にそれぞれ電流I1、I2が流れている時、導線の長さΔLの部分に

  • \Delta F \propto \frac{I_1 I_2}{r}{\Delta L}

だけの力が生じる。
場と力の関係から見た電場Bの大きさを、

  •  \Delta F = I B \Delta L

となるように定める。(あるいはローレンツ力でいうと速度vで動く電荷qに働く力がF = q v \times Bとなるようにする。)
源と場の関係から見た磁場Hは、大きさIの直線電流が距離r離れた位置に作る磁場が

  •  H = \frac{I}{2\pi r} (有理単位系)
  •  H = \frac{2I}{ r} (非有理単位系)

となるようにする。電流密度jとの関係で表すと

  •  {\rm rot}\, {H} = j (有理単位系)
  •  {\rm rot}\, {H} = 4\pi j (非有理単位系)

となる。
そしてBとHとの関係を

  •  {H} = \frac{1}{\mu_0}{B}

と表す。
単位を見ると、

  • B 〜 力・電流-1・長さ-1 〜 エネルギー・電流-1・長さ-2
  • H 〜 電流・長さ-1

のようになっている。

1.3. cgs単位系でのE・D、B・Hの単位

非有理単位系ではクーロンの法則は、 F = \frac{1}{\epsilon_0}\frac{q_1 q_2}{r^2} となる。
cgs静電単位系では、センチメートル、グラム、秒の単位系のもとで、非有理系でε0=1となるように電荷の大きさを決める。
ε0=1なので、D=ε0Eの関係にあるEとDは同じ値になる。
さらに、このε0は無次元量(単位の何もつかないただの数)の1なので、EとDは値が同じなだけでなく単位も同じになる。また電荷の単位は

  • \mbox{電荷} \sim \mbox{力}^{\frac{1}{2}}\times \mbox{長さ} \sim \mbox{長さ}^{\frac{3}{2}}\times \mbox{質量}^{\frac{1}{2}}\times \mbox{時間}^{-1}

となって、単位の指数に分数が現れる。

一方、cgs電磁単位系では、同様に非有理系でμ0=1となるように電流と電荷の大きさを決める。こちらは磁場BとHの値と単位が同一になる。

ε0μ0 = 1/c2の関係があるので、ε0とμ0の両方を1にすることはできない。
cgsガウス単位系は、電磁単位系での磁場の値を定数倍して静電単位系に合わせたもの。
\left(\begin{array}{c}D \\ H/c \end{array}\right) = \epsilon_0\left(\begin{array}{c}E \\ cB \end{array}\right)
の関係があるので、磁場の大きさを B' = cB、H'=H/c と定義しなおし、かつ、ε0=1とした単位系と同じ。これにより、EとDの値、BとHの値がそれぞれ等しくなり、さらにE、D、B、Hがすべて同一の単位になる。

2. マクスウェル方程式との関係

2.1. 源に関する式と力(orポテンシャル)に関する式

ここまでだと、場を二面的に見たことによって単位がややこしくなっているだけにも見えるけど、それだけでなく、うまい具合にマクスウェルの方程式も二組に分かれている。
まず電磁場と、源(電荷・電流)との関係を表すのが、

  •  {\rm div}\,{D} = \rho
  •  {\rm rot}\,{H} - \frac{\partial {D}}{\partial t} = {j}

で、さらにこれは電荷保存則

  •  \frac{\partial \rho}{\partial t} +  {\rm div}\,{j} = 0

と適合している。
もうひと組の

  •  {\rm div}\,{B} = 0
  •  {\rm rot}\,{E} + \frac{\partial {B}}{\partial t} = 0

は、力とあまり関係ないように見えるけど、これらから、

  • {E} = -{\rm grad}\,\phi - \frac{\partial {A}}{\partial t}
  • {B} = {\rm rot}\, {A}

というポテンシャルϕ、Aが導かれ、逆にポテンシャルϕ、Aを前提にしてこれら2式をポテンシャルϕ、Aを使ったEとBの定義とすると、マクスウェル方程式の2式はEとBが満たすべき恒等式となる、というようにポテンシャルとの関係を表すという形で力と関係している。

2.2. 微分形式から見た違い(1形式と2形式の違い)

通常、E、D、B、Hはどれもベクトル場として扱われるけど、微分形式では異なるものになる。この違いは通常のベクトル解析の立場でも、マクスウェルの方程式を積分形に書き直すと見えてくる。
それが次の式。ここで、線積分されている量には1、面積分されている量には2、体積積分されている量には3、という印を上に付けた。

  •  \oint_{\partial V} \overset{2}{D}\cdot {n}\, dS = \int_{V} \overset{3}\rho \, dV
  •  \oint_{\partial S} \overset{1}{H}\cdot d{l} - \frac{d}{dt}\int_S \overset{2}{D}\cdot {n}\, dS = \int_S \overset{2}{j}\cdot {n}\, dS
  •  \oint_{\partial V} \overset{2}{B}\cdot {n}\, dS = 0
  •  \oint_{\partial S} \overset{1}{E}\cdot d{l} + \frac{d}{dt}\int_S \overset{2}{B}\cdot {n}\, dS = 0

これを見ると、EとHは線積分される量で、BとDは面積分される量になっていることが分かる。
通常のベクトル解析の枠組みではベクトル場は線積分も面積分もどちらも行うことができるけど、それは計量があってベクトルの内積が取れるから。しかし一般の多様体を考えると、必ずしも計量を持つとは限らない。そうした内積無しの場合でもk次元の空間積分ができる量があって、それが微分形式というもの。(k次微分形式=k次交代共変テンソル場なので、ベクトル解析やテンソル解析の立場から見ても全く未知の量という訳ではない。)
そして電磁気学微分形式で扱うと、EとHは1形式(1次微分形式)で、BとDは2形式(2次微分形式)となる。(マクスウェルも線に関わる量と面に関わる量というように区別を与えて、intensity↔quantityとかforce↔fluxなどと呼び分けていたみたい。例えばA Treatise on Electricity and Magnetism - Volume 1。)
計量を持った空間では、ホッジ・スター「*」という演算が定義できて、n次元空間では、k形式をn-k形式に変換することができる。そして E、B と D、H の間には、D = \epsilon_0 (*E), \quad H = \frac{1}{\mu_0}(*B) という関係がある。*1

このように、電場EとD、磁場BとHについて、場を源との関係でみるか力との関係でみるかという区別と、1形式か2形式かという区別があることになった。

  • 電場: E(力、1形式) ↔ D(源、2形式)
  • 磁場: B(力、2形式) ↔ H(源、1形式)

そして、物理量としてはEとB、DとHがそれぞれ組になる量なのだけど、EとHの間にどちらも1形式であるための類似が生じ、DとBの間にどちらも2形式であるための類似が生じる。
例えば1形式に対する外微分はベクトル解析ではrotに対応し、2形式に対する外微分はdivに対応する。なので、EとHの空間微分はrot E、rot Hとなり、どちらも2形式の量(BやDの時間微分あるいは1形式の量の体積密度)と組み合わされる。 DとBの空間微分はdiv D、div Bとなり、3形式の量(スカラー量(0形式)の体積密度)と組み合わされる。その結果、マクスウェル方程式の式の形を見ると、EとHの役割が類似して見え、DとBの役割が類似して見えることになる。

2.3. 微分形式から見た違い: 4次元での場合

3次元ではEが1形式、Bが2形式、Dが2形式、Hが1形式となった。
相対論にもとづいて4次元で考えると、EとBが合わさってひとつの2形式、DとHが合わさってひとつの2形式になって、どちらも同じ2形式となる。それでも次のように、EとD、BとHは異なった扱いになっている。
EとBを合わせた2形式をFで表し、DとHを合わせた2形式をGで表すことにすると、次のようになる。

  •  F = -\frac{E_x}{c}cdt\wedge dx -\frac{E_y}{c}cdt\wedge dy -\frac{E_z}{c}cdt\wedge dz +B_x dy\wedge dz +B_y dz\wedge dx +B_z dx\wedge dy
  •  G = D_x dy\wedge dz +D_y dz\wedge dx +D_z dx\wedge dy  +\frac{H_x}{c}cdt\wedge dx +\frac{H_y}{c}cdt\wedge dy +\frac{H_z}{c}cdt\wedge dz

これらの間にホッジ・スターを介して、 G = \sqrt{\frac{\epsilon_0}{\mu_0}}(*F) の関係がある。
(またこれらの式を見ると、相対論的にはひとまとまりの量であるEとBが異なる単位を持ち、同じくひとまとまりの量であるDとHが異なる単位を持っているのは、時間の単位と長さの単位が違っていることに由来していたことが分かる。時間に光速度cをかけたものを新たに時間の単位に取り直すと、時間の単位と長さの単位が一致し、それと連動してEとB、DとHの単位が一致することになる。)

ついでに

  •  A = -\frac{\phi}{c}cdt + A_x dx + A_y dy + A_z dz
  •  J = \rho dx \wedge dy \wedge dz - \frac{j_x}{c} cdt\wedge dy\wedge dz - \frac{j_y}{c} cdt\wedge dz\wedge dx - \frac{j_z}{c} cdt\wedge dx\wedge dy

のように定義すると、電磁気学の主な法則は微分形式では次のようにまとめられる。

電磁ポテンシャルと E、B  dA = F
マクスウェル方程式の半分 (E、B)  dF = 0
力(クーロン力ローレンツ力)と E、B  f = -q i_{v}(F) ※ iは内部積
E、B と D、Hの関係  G = \sqrt{\frac{\epsilon_0}{\mu_0}}(*F)
マクスウェル方程式の半分 (D、H と 電荷、電流)  dG = J
電荷保存則  dJ = 0

(※ 微分形式では外微分dを2回続けると必ず0になる。)

とりあえず、ここまで。
磁石との関係を扱うその2に続く。

*1:計量を持った空間では、反変ベクトルと共変ベクトルの間の変換、1形式(=共変ベクトル場)と2形式の間の変換を行うことができるため、ベクトル解析では初めから1種類のベクトルだけがあるように扱う。