電磁気学における磁場BとHの関係(その2)

電磁気学における磁場BとHの関係(その1)の続き。
その1で、磁化を考慮しないでも生じるBとHの違いを扱ったので、この文章では、磁化の扱いで生じるBとHの違いを扱う。

1. 磁石(磁化)のモデル化の仕方とその影響

BとHの区別の話の前に、その話の前提となる磁石のモデル化について。

1.1 磁荷双極子モデルと微小ループ電流モデル

19世紀初め、磁石の性質について、

  • 電荷と同様に、磁石のN極S極に働く力についてもクーロンの法則(逆二乗則)が成り立つ。
  • 電荷と異なり、N極だけS極だけを単独で取り出すことはできない。

が知られていた。これを踏まえて、磁石をどう扱うかについて、次の2つの考え方が出された。

  • 磁石の源(磁場の発生源)を、磁荷双極子(正と負の同じ大きさの磁荷をわずかに離れた位置に置いたもの)と考える。*1
  • 磁石の源を、微小なループ電流と考える。

しかし、その後、どちらの考え方を取っても、

  1. 両者の作る磁場は、磁荷双極子・微小ループ電流が置かれた点を除いて、完全に一致する。
  2. 磁荷双極子・微小ループ電流のある点の磁場はそれぞれの考え方ごとに違った値を取るけど、簡単な計算(値の足し引き)で、もう一方の考え方での磁場の値を得ることができる。

ということが分かった。

1.2 磁荷双極子モデルと微小ループ電流モデルの関係

両方のモデルの関係式を示す。

  • 磁気モーメント(磁荷双極子や微小ループ電流の強さ)はベクトルmで表される。磁気モーメントの体積密度を磁化Mと呼ぶ。(磁荷ではない。)
  • 磁荷双極子モデルから計算される磁場を B(d)、H(d) と表記する。 (dipoleのd)
  • ループ電流モデルから計算される磁場を B(c)、H(c) と表記する。 (current loopのc)

とすると、両モデルの磁場の間に、

  • {\bf B}^{(d)} = {\bf B}^{(c)}-  \mu_0{\bf M}
  • {\bf H}^{(d)} = {\bf H}^{(c)}-  {\bf M}

という関係が成り立つ。

磁気モーメント(磁荷双極子や微小ループ電流)の体積密度を考えるのではなく、大きさ\bf{m}の磁荷双極子や微小ループ電流が1点\bf{r_0}に置かれた場合を考えると、発生する磁場はデルタ関数\delta({\bf r})を使って

  • {\bf H}^{(d)}({\bf r}) = \frac{3({\bf m}\cdot({\bf r}-{\bf r_0}))({\bf r}-{\bf r_0}) - ({\bf r}-{\bf r_0})^2{\bf m}}{4\pi |{\bf r}-{\bf r_0}|^5} - \frac{\bf m}{3}\delta({\bf r}-{\bf r_0})
  • {\bf H}^{(c)}({\bf r}) = \frac{3({\bf m}\cdot({\bf r}-{\bf r_0}))({\bf r}-{\bf r_0}) - ({\bf r}-{\bf r_0})^2{\bf m}}{4\pi |{\bf r}-{\bf r_0}|^5} + \frac{2{\bf m}}{3}\delta({\bf r}-{\bf r_0})

と表される。{\bf M}({\bf r}) = {\bf m}\delta({\bf r}) と置けば、この場合も{\bf H}^{(d)}({\bf r}) = {\bf H}^{(c)}({\bf r}) -  {\bf M}({\bf r}) の関係が成り立っている。

1.3 磁化を考慮したマクスウェル方程式

磁化Mを考慮したとき、マクスウェル方程式(のうち関係する式)は次のようになる。(変位電流の項ははぶいた。)

磁荷双極子モデル ループ電流モデル
 {\rm div}\,{\bf B}^{(d)} = -\, {\rm div}\,(\mu_0{\bf M})  {\rm div}\,{\bf B}^{(c)} = 0 磁荷双極子の打ち消し合いで残った磁荷が  -\, {\rm div}\,(\mu_0{\bf M})
 {\rm rot}\,{\bf H}^{(d)} = {\bf i}  {\rm rot}\,{\bf H}^{(c)} = {\bf i} + {\rm rot}\,{\bf M} ループ電流の打ち消し合いで残った電流が  {\rm rot}\,{\bf M}
 {\bf H}^{(d)} = \frac{{\bf B}^{(d)}}{\mu_0}  {\bf H}^{(c)} = \frac{{\bf B}^{(c)}}{\mu_0}

これは次のように変形できる。

磁荷双極子モデル ループ電流モデル
 {\rm div}\,\left({\bf B}^{(d)}+\mu_0{\bf M}\right) = 0  {\rm div}\,{\bf B}^{(c)} = 0
 {\rm rot}\,{\bf H}^{(d)} = {\bf i}  {\rm rot}\,\left({\bf H}^{(c)}-{\bf M}\right) = {\bf i}
 {\bf H}^{(d)} = \frac{{\bf B}^{(d)}}{\mu_0}  {\bf H}^{(c)} = \frac{{\bf B}^{(c)}}{\mu_0}

これらの式を比べると、磁荷双極子モデルの式の{\bf B}^{(d)},\, {\bf H}^{(d)}

  • {\bf B}^{(d)} = {\bf B}^{(c)}-  \mu_0{\bf M}
  • {\bf H}^{(d)} = {\bf H}^{(c)}-  {\bf M}

で置き換えるとループ電流モデルの式になる。
よってMやμMを足し引きすることで、片方のモデルの磁場からもう一方の磁場を得られるが分かる。

1.4 磁化がある時に生じる磁場の例

このあとの話にはあまり関係しないけれど、両モデルで磁場がどう違ってくるかの例をあげておく。
例1: 棒状磁石の作る磁場
棒状の磁石の作る磁場を考えると、

  • 磁石の外側(M=0)では、どちらのモデルでも磁場は一致して、磁場ベクトルに沿う磁力線はN極から出てS極に入る方向に描かれる。
  • 磁石の内部(M≠0)では、
    • 磁荷双極子モデルの磁場(d)は、N極から出てS極に入る磁力線が描かれる。(N極に磁力線の湧き出し、S極に磁力線の吸い込みが生じる。)
    • ループ電流モデルの磁場(c)は、S極からN極に向かう磁力線が描かれる。(磁石外部の磁力線と合わせて、磁力線は端点の無いループを描く。)

そしてこれらの磁場は、磁化ベクトルMを足したり引いたりすることで相互に変換できる。
さらにこの例で磁場の出来る状況をそれぞれのモデルの立場で描写すると、次のようになる。

  • 磁荷双極子モデル(d): 磁化が一定の場所(磁石の内部)では磁荷双極子同士が打ち消し合い、打ち消されず残るのはN極表面とS極表面だけ。結果として、N極表面にプラスの磁荷、S極表面にマイナスの磁荷が生じる。そのため、磁石の外部と内部のどちらについても、N極からS極に向かう磁力線が描かれる。
  • ループ電流モデル(c): 磁化が一定の場所(磁石の内部)ではループ電流同士が打ち消し合い、打ち消されず残るのは磁石の側面だけ。結果として、磁石の側面を取り巻く電流が生じる。これはコイルに電流を流したのと同様の状態なので、N極から外側に向かって磁力線が出て、ぐるっと回ってS極に入っていき、磁石内部ではS極からN極に磁力線が向かい、全体としてループ状の磁力線となる。

例2: 磁石内部の磁場の測定
磁荷双極子モデルとループ電流モデルのどちらで考えるかによって磁石内部の磁場の値は異なる。しかし、磁荷双極子モデルの磁場(d)の値もループ電流モデルの磁場(c)の値も、どちらも測定することができる。

磁場(d)の測定: 測定したい点を中心にして、磁化ベクトルMの方向にそって細長い筒状の隙間を作り、その隙間で磁場を測定する。(隙間内ではM=0なのでどちらのモデルでも同じ値になる。) すると {\bf B}^{(d)}の値が得られる。 {\bf B}^{(d)}の値が得られる説明は次のようになる。

  • 磁荷双極子(d)モデルでの説明: 隙間を作ったとき、筒の両端に-\, {\rm div}\,(\mu_0{\bf M})による磁荷が生じる。しかし隙間を非常に細く作れば、筒の端点で生じる磁荷は非常に小さくなり、測定点への影響も小さくなって無視できる。そのため、磁場の値 {\bf B}^{(d)}がそのまま観測される。
  • ループ電流(c)モデルでの説明: 隙間を作ったとき、{\rm rot}\,{\bf M}により筒を取り巻くようにコイル状の電流が生じる。この電流から-{\bf M}の磁場が生じる。(磁場の方向が磁化ベクトルMの方向と逆になるのは、新たに生じた電流の回る向きは磁石の周りを回る電流の向きとは逆向きになるため)。もとからあった磁場と合わせて、 {\bf B}^{(c)} - \mu_0 {\bf M} \left(= {\bf B}^{(d)}\right)の値が観測される。

磁場(c)の測定: 磁化Mの方向を軸とする薄い円盤状の隙間を作って、その隙間で測定を行うと、 {\bf B}^{(c)}の値が得られる。

  • 磁荷双極子(d)モデルでの説明: 円盤状の隙間の両面に-\, {\rm div}\,(\mu_0{\bf M})による磁荷が生じる。(磁石をふたつに割ると、割ってできた面に新たなN極S極が現れたような感じ。) 生じた磁荷によって磁場{\bf M}が作られるので、 {\bf B}^{(d)} + \mu_0 {\bf M} \left(=   {\bf B}^{(c)}\right)の値が観測される。
  • ループ電流(c)モデルでの説明: 円盤状の隙間の周囲を回るように、{\rm rot}\,{\bf M}による電流が生じる。しかし隙間を十分薄く作れば、側面は小さくなり生じるループ電流の影響は無視できる。そのため、磁場の値 {\bf B}^{(c)}がそのまま観測される。
1.5 モデルの選択

磁荷双極子モデルと微小ループ電流モデルでどちらが正しいのか。
というと、それは微小ループ電流モデルになる。
スピンによる磁気は、異種の磁荷の組によるものと考えるよりも微小ループ電流に類似しているとみなせる。また、磁場の影響を受ける粒子が磁場を生じさている源の粒子と接触すると、微小ループ電流の場合の発散する項 \frac{2{\bf m}}{3}\delta({\bf r})(接触項と呼ばれる)と同じ特異性を示すことが実験で分かっている。

ということは、微小ループ電流モデルによる磁場B(c)、H(c)だけを使うべきで、磁荷双極子モデルの磁場B(d)、H(d)は無意味かというとそうではない。
磁荷双極子モデルを取らなくても、B(d)、H(d)

  • {\bf B}^{(d)} = {\bf B}^{(c)}-  \mu_0{\bf M}
  • {\bf H}^{(d)} = {\bf H}^{(c)}-  {\bf M}

で定義される値として意味を持つ。
例えばヒステリシスの実験のように外部電流により磁場を印加する場合、  {\rm rot}\,{\bf H}^{(d)} = {\bf i} の関係があるため、B(d)、H(d)の値はコントロールしやすく、これを入力側の磁場の大きさとする。そして電磁誘導の法則からB(c)、H(c)が測定され、両者の差を取ることで磁化の値が求まる。また、境界や周回積分などで成り立つ性質が(c)の磁場と(d)の磁場で異なるので、両者の併用が役に立つ。
さらに(d)の値だけでなく、磁荷双極子モデル自体も必ずしも捨てる必要はない。

  • どちらのモデルを使って磁場を計算をしても最終的に同じ値を得ることができるけど、たいていは磁荷双極子モデルの方が扱いやすい。
    • 磁荷双極子モデルでは、磁化Mの影響が- {\rm div}\,(\mu_0{\bf M}) (スカラー値)の分布として現れて、クーロンの法則の足し合わせで磁場が生じる。一方、微小ループ電流モデルでは、磁化Mの影響が{\rm rot}\,{\bf M} (ベクトル値)の分布として現れて、ビオ・サバールの法則にしたがって磁場が生じる。これらを比べると、結果は同じでも、磁荷双極子モデルの方が計算も定性的な理解もしやすい。
      • 電場の問題で使われる鏡像法と比較すると分かりやすいかもしれない。鏡像法では、実際に置かれている導体の代わりに、同じ境界条件を満たすように電荷を配置する。配置した電荷は現実に存在するものではないけど、導体を電荷に置き換えることで問題を扱いやすくしている。磁化についても同様で、より現実に近い微小ループ電流モデルの磁化を、より計算しやすい磁荷双極子モデルの磁化に置き換えて問題を扱いやすくしているとみなすことができる。
  • 巨視的な視点(磁荷双極子やループ電流要素を平均化して密度分布によって磁化を考える)では、磁荷双極子モデルと微小ループ電流モデルはどちらも磁石内部(磁化M≠0)についても同じ結果を与えるため物理的に区別できない。なぜなら磁石内部での誘導起電力や電荷に働く力はどちらのモデルで考えても{\bf B}^{(c)}の値から決まるので。(加藤正昭『電磁気学』東京大学出版会 p.155 §5.2。)
  • 粒子同士の接触で働く接触項の影響も、粒子の集合系の性質を考える上では重要ではなくなる。接触項の影響よりも排他原理に基づく交換作用の影響の方がはるかに大きくなるため、磁荷双極子モデルの値(d)で磁場を考えてそれに交換作用の影響を加えて考えてもかまわない。(中山正敏『物質の電磁気学』岩波書店 p.142 5-3節。)
1.6 補足: 磁化の単位

ここまで、ふたつのモデルでの磁場の関係を

  • B(d) = B(c) - μ0M
  • H(d) = H(c) - M

と書いてきたけど、本当は、磁化Mの単位の取り方が2種類あり、それに応じて関係式が微妙に違ってくる。*2 それについて一応補足。

ループ電流による磁化の単位を考えると、磁気モーメント(ループ電流の強さ)は電流×面積で、その体積密度の単位は電流/長さ(A/m)となって磁化の単位はHと同じになる。この単位で考えると上の形の式でよい。

次に磁荷双極子による磁化の単位を考える。SI単位系では、磁荷の単位はWbで、磁荷についてのクーロンの法則はB = \frac{1}{4\pi}\frac{q_m}{r^2} (あるいは微分形では{\rm div}\,{\bf B} = \rho_m)となる。この単位にもとづいて磁荷双極子の磁化を考えると、磁荷双極子の大きさは磁荷×長さ(Wb・m)で、その体積密度を取ったときの単位はWb/m2でこれはBの単位と同じになる。こちらの単位で考えたものを、磁化でなく、磁気分極と呼ぶこともある。こちらの単位で見た磁化(磁気分極)をPmと表すと、これと等価なループ電流の磁化Mとは、Pm = μ0M の関係式があり、磁場の関係式は、

  • B(d) = B(c) - Pm
  • H(d) = H(c) - Pm0

となる。

このように磁化の単位が2種類出てくるのだけど、微小ループ電流モデルで考えるときはA/m(Hと同じ単位)を使い、磁荷双極子モデルで考えるときはWb/m2(Bと同じ単位)を使うべき……とは言えない。
すでに書いてきたように、微小ループ電流モデルと磁荷双極子モデルはある意味等価で、磁化の値の足し引きでたがいに移り変えることができる。なので、どちらのモデルで磁化を考えているかによらず同じ単位で磁化を考えた方が分かりやすい。(と考えて、この文章ではモデルによらず磁化の単位を片方に固定してきた。)

微小ループ電流モデルの方が現実に近いモデル化なのだから磁化の単位はA/mに統一するというのもひとつの考え方。(また歴史的には、磁荷の単位を「磁荷×長さ = 電流×面積」となるように取るというものもあり、そのような磁荷の単位を使うと磁荷双極子モデルでも磁化の単位は電流/長さになる。木幡重雄『電磁気の単位はこうして作られた』工学社 p.152 §7-1)
しかし磁石の強さはBの大きさ(単位はT=Wb/m2)で計られるのだから、磁化の単位をBと同じにして考えた方が分かりやすいという面もあるので、磁化の単位の選び方にばらつきが生じる。

他には(磁化のモデル化の違いではなく)単位の違いに応じて磁化の呼び名を変えるというやり方も考えられる。(一応、磁化と磁気分極という2種類の呼び名がすでにあるけど、今のところこれは単位の違いというよりもモデル化の違いを指している感じがする。)

このように、考え方によって磁化の単位の取り方が違ってくる。

ついでにcgsガウス単位系の場合に触れておくと、cgsガウス単位系ではBとHの単位は同じになり、磁化の単位もひとつしかない。ただし、非有理単位であるために、磁場の関係式は

  • B(d) = B(c) - 4πM

となる。

2. 電磁気学の本でのBとH

ここまでで、その1で説明したBとHの違いと、磁化のモデルの取り方による違いによって、

  • 微小ループ電流モデルでの磁場 B(c)、H(c)
  • 磁荷双極子モデルでの磁場(またはループ電流モデルの磁場を磁化の値で補正した磁場) B(d)、H(d)

の4通りの磁場が考えられることになった。
4つの値の間には

  •  {\bf H}^{(c)} = \frac{{\bf B}^{(c)}}{\mu_0}
  • {\bf B}^{(d)} = {\bf B}^{(c)}-  \mu_0{\bf M}
  • {\bf H}^{(d)} = {\bf H}^{(c)}-  {\bf M}
  •  {\bf H}^{(d)} = \frac{{\bf B}^{(d)}}{\mu_0}

の関係がある。

しかし普通の電磁気学の本ではこの4つの磁場すべてが登場するのではなく、{\bf B}^{(d)},\, {\bf H}^{(c)}の2つの値だけが登場する。
磁石について微小ループ電流モデルを取る本(現在の多くの電磁気学の本)では、

  • {\bf B} = {\bf B}^{(c)} (微小ループ電流モデルでのBの値)
  • {\bf H} = \frac{\bf B}{\mu_0} -  {\bf M} \left(= {\bf H}^{(d)}\right) (微小ループ電流モデルで、磁化の値を引いたHの値)

と定義される。
磁石について磁荷双極子モデルを取る本の場合は、

  • {\bf H} = {\bf H}^{(d)} (磁荷双極子モデルでのHの値)
  • {\bf B}= \mu_0{\bf H}+  \mu_0{\bf M} \left(= {\bf B}^{(c)}\right) (磁荷双極子モデルで、磁化の値を足したBの値)

と定義される。しかしいずれにしても、B、Hの値はどちらの定義でも同じ値になる。
(微小ループ電流モデルを取る立場をE-B対応、磁荷双極子モデルを取る立場をE-H対応と呼ぶことが多いけど、これは変な呼び方の気がする。どちらのモデルを取ろうともEとB、DとHがそれぞれ組になる量であることは変わらずその点ではどちらのモデルでもEとBが対応するし、EとHは1次微分形式でDとBは2次微分形式(そのため数式はEとH、DとBが類似する)という点ではどちらのモデルでもEとHが対応しているので。)

そして磁化を考慮したマクスウェル方程式(で磁化に関係する部分)は、モデルの取り方によらず

  •  {\rm div}\,{\bf B} = 0
  •  {\rm rot}\,{\bf H} = {\bf i}
  • {\bf H} = \frac{\bf B}{\mu_0} -  {\bf M}

となる。
このようにしてBとHの2つの磁場だけを考えるのは4つの磁場を考えるよりも一見簡潔だけど、落とし穴もある。
BとHの違いには、

  • 磁化の値を足し引きしたことによる値の違い。
  • 単位の違いに由来する値の違い。

の両方が混ざってしまっている。そのため、磁化(磁石)が関わる問題を考えるときに、単位の違いのせいで分かりにくくなることがあるように思う。

ふたたびヒステリシスの実験を例にとると、ヒステリシスループの実験のグラフは、しばしば横軸の単位はHの単位A/m、縦軸の単位はBと同じT=Wb/m2に取られる。(磁化の単位の取り方はA/mとT=Wb/m2の両方の取り方ができるけど、磁化を磁石の強さと結び付けたいので磁石関連の世界では磁化の単位はWb/m2が好まれるみたい。)

しかし、具体的な数値が重要な場合、横軸と縦軸で単位を変えるのは分かりにくくする効果しかないように思う。縦と横で違う単位で目盛りを打つよりも、横軸の量をHではなく、μ0H (=B(d))にして両軸を同じ単位にした方が分かりやすいはず。にもかかわらHとBの間に単位の違いがあらかじめ含まれているために、自然と縦軸と横軸で別の単位を使ってしまっているように思う。

3. まとめ

その1で出てきたことも合わせて、磁場BとHの違いは次のようになる。

  • Bは、場が他のものに力を与えるという視点から見た磁場(力の場)。Hは、場が電流から生成されるという視点から見た磁場(源の場)
    • 場の大きさの計り方が違うので、単位が違ってくる。(SIではBの単位はT=Wb/m2、Hの単位はA/m)
    • Bは面積分される量(2次微分形式)で、Hは線積分される量(1次微分形式)。
  • 磁化のモデル化の仕方の違い(あるいは磁場の値を磁化で補正すること)によって、微小ループ電流モデルの磁場B(c)、H(c)と、磁荷双極子モデルの磁場B(d)、H(d)が考えられる。
    • ただし、普通の電磁気学の本では、この4種類のうちB(c)とH(d)だけが出てきて、B = B(c)、H = H(d) となるようにBとHが定義される。

*1:普通「磁荷双極子」ではなく「磁気双極子」と呼ぶけど、微小ループ電流を指して「磁気双極子」の語が使われる場合があるので、区別をはっきりさせるためにこの文章では造語して「磁荷双極子」と呼ぶ。

*2:微分形式で考えた場合、単位の問題とは別に、磁荷双極子の磁化は2形式でループ電流の磁化は1形式という違いもあるが、これは扱わない。