ガウスの補題についてのメモ(1): 補題の証明

平方剰余についてのガウス補題は次のようなもの。

apで割り切れない数とし、\left(\frac{a}{p}\right)ルジャンドル記号とする。
a,2a,3a,\ldots,\frac{p-1}{2}a素数pで割った余りのうち\frac{n}{2}より大きいものの個数をl個とすると
\left(\frac{a}{p}\right) = (-1)^l
これをどうやって証明するか以前に、どうして唐突に「\frac{n}{2}より大きいものの個数」なんてものが出てきたのかという疑問が浮かぶ。

これはフェルマーの小定理の乗法的証明と比較するといくらか理解しやすい。

フェルマーの小定理a^{p-1} \equiv 1 \; \pmod pの証明:
1,2,3,\ldots,p-1のそれぞれにaをかけてpで割った余り
a,2a,3a,\ldots,(p-1)a \;\pmod p
を考えると、これらは全て異なっている。
全て異なることの説明:
ユークリッドの互除法を用いるとax+py=1となるxが求まり、このxax \equiv 1 \pmod pを満たす。つまり{}\bmod pの世界では、xaの逆数になる。よって
a,2a,3a,\ldots,(p-1)a \;\pmod p
のそれぞれにxをかけると
1,2,3,\ldots,p-1 \;\pmod p
となる。明らかにこれらは全て異なる値になる。なので、もしも
a,2a,3a,\ldots,(p-1)a \;\pmod p
の中に等しいものがあったとすると、それぞれにxをかけた
1,2,3,\ldots,p-1 \;\pmod p
の中にも等しいものがあることになって矛盾してしまう。よって
a,2a,3a,\ldots,(p-1)a \;\pmod p
は全て異なる。

したがって

\left\{ 1,2,3,\ldots,p-1 \right\} \; \pmod p
\left\{ a,2a,3a,\ldots,(p-1)a \right\} \;\pmod p
は要素が一致しているので、それぞれの要素を全てかけあわせれば
(p-1)! \equiv a^{p-1} (p-1)! \; \pmod p

となる。
ユークリッドの互除法から
 x (p-1)! \equiv 1 \pmod p
となるxの存在が言えるので、このxを両辺にかければ
 1 \equiv a^{p-1} \; \pmod p
となる。(証明終わり)
この証明を参考にガウス補題を証明する。
まずルジャンドル記号には「オイラーの基準」と呼ばれる次の性質がある。
\left(\frac{a}{p}\right) \equiv a^{\frac{p-1}{2}} \; \pmod p
これとフェルマーの小定理
 1 \equiv a^{p-1} \; \pmod p
の形の類似を見ると、フェルマーの小定理の証明と似た議論をすると何か得られるのではという見込みが立つ。
ガウス補題の証明:
 \left\{ 1,2,3,\ldots,\frac{p-1}{2} \right\}
のそれぞれにaをかけてpで割った余りをとると
\left\{a,2a,3a,\ldots,\frac{p-1}{2}a\right\}\pmod p
という集合が得られる。ここで、これらの要素の値は全て異なっている。
これらの要素の中にp/2より大きいものがあるとすると、もとの集合
\left\{1,2,3,\ldots,\frac{p-1}{2}\right\}
とは一致しない。なぜなら\left\{1,2,3,\ldots,(p-1)/2\right\}の各要素は全てp/2より小さいので。
そこで
\left\{a,2a,3a,\ldots,\frac{p-1}{2}a\right\}\; \pmod p
のなかにp/2より大きいものがあればその
ka \;\pmod p
を取り除いて
-ka \; \pmod p
に置き換えることにする。このとき、0 < -ka \; \pmod p < p/2、となる。
ここで\epsilon(k)という記号を導入して、ka \pmod pp/2より大きいときは\epsilon(k)=-1、そうでないときは\epsilon(k)=1となる\epsilon(k)を表すことにすれば、置き換えの結果
\left\{\epsilon(1) a,\epsilon(2) 2a,\epsilon(3) 3a,\ldots,\epsilon(\frac{p-1}{2}) \frac{p-1}{2}a\right\}\pmod p
という集合が得られることになる。この(p-1)/2個の値は全て異なっている。
すべて異なることの説明:
もしも
\epsilon(1) a, \, \epsilon(2) 2a, \, \epsilon(3) 3a, \, \ldots, \, \epsilon(\frac{p-1}{2}) \frac{p-1}{2}a \; \pmod p
の中に互いに等しいものがあるとすれば、それぞれにaの逆元をかけて得た
\epsilon(1) , \, \epsilon(2) 2, \, \epsilon(3) 3, \, \ldots, \, \epsilon(\frac{p-1}{2}) \frac{p-1}{2} \; \pmod p
の中にも互いに等しいものがある。しかしこれらは
 \pm 1, \,  \pm 2, \, \ldots , \,  \pm \frac{p-1}{2} \; \pmod p
のどれかなので、等しくなることはありえない。
\left\{\epsilon(1) a, \, \epsilon(2) 2a, \, \epsilon(3) 3a, \, \ldots, \, \epsilon(\frac{p-1}{2}) \frac{p-1}{2}a\right\}\pmod p
は各要素がどれもp/2より小さくてかつ互いに異なっているので、集合として
\left\{1,2,3,\ldots,\frac{p-1}{2}\right\}
と一致する。同じ要素からなっているので、各集合で要素をかけあわせると同じ数になる。
よって要素をそれぞれかけ合わせて
 \epsilon(1)\cdots\epsilon(\frac{p-1}{2}) \; \frac{p-1}{2}! \; a^{\frac{p-1}{2}} \equiv \frac{p-1}{2}!  \quad \pmod p
となる。
\left\{a,2a,3a,\ldots,\frac{p-1}{2}a\right\}\pmod p
の中でp/2より大きいものの個数をlとすると、\epsilon(1)\cdots\epsilon (\frac{p-1}{2}) = (-1)^lなので
 (-1)^l \, \frac{p-1}{2}! \, a^{\frac{p-1}{2}} \equiv \frac{p-1}{2}! \quad \pmod p
逆元をかけることで\frac{p-1}{2}!の部分は消せるので
 (-1)^l  a^{\frac{p-1}{2}} \equiv 1 \quad \pmod p
となる。よって
a^{\frac{p-1}{2}} \equiv (-1)^l   \quad \pmod p
が得られる。オイラーの基準
\left(\frac{a}{p}\right) \equiv a^{\frac{p-1}{2}} \quad \pmod p
と合わせれば
\left(\frac{a}{p}\right) \equiv (-1)^l \quad \pmod p
となる。(証明終わり)
ガウス補題を使った平方剰余の相互法則の証明にもいろいろなものがある。おそらくもっともよく出てくるのは、格子点の個数を数えるもの。