高瀬正仁『ガウスの数論』

タイトル通り、ガウスの数論を詳しく紹介している。説明自体は非常に明解で、ガウスの思索が相互法則の周りを常に巡っていることも分かる。にもかかわらず、ガウスはどうしてこんなことをやったんだろうという不可解な気分がずっと消えなかった。何か孤高というか隔絶しているというか。
ガウスに端を発するそれ以後の数学の流れをもう少し詳しく理解できたら不可解さも減るかもしれないと思ったので、第2章「円周等分方程式とアーベル方程式」とあとがきを参考にしてとりあえずまとめてみる。

(1) 方程式論

ガウスの円周等分方程式論(とそこで述べられたレムニスケートの等分についての註)を起点とする流れ。
アーベルは楕円関数を研究しレムニスケート等分の理論を得て、一般化して、虚数乗法、さらにアーベル方程式の概念を得た(アーベル方程式は代数的に解ける方程式の一種で、円周等分方程式やレムニスケートの等分方程式もアーベル方程式。方程式が代数的に解けるための一般的な条件はその後ガロアによって得られた)。

(2) 代数的整数論

四次剰余の相互法則の定式化のためにガウス整数を導入し、さらに「高次冪剰余の理論は他の虚量の導入を必要とする」と述べた道筋。

(ヤコビ、アイゼンシュタイン等による研究を経て)クンマーが円分体を考察し理想数(イデアル・ツァール)を導入する。ガウスの二次形式の種の理論を(正則な場合の)円分体上に一般化して高次の冪剰余相互法則を証明する。

デデキントは、集合を用いてクンマーの導入した理想数を説明する(イデアル論)。またガウスの二次形式の理論は(ディリクレによる解説を経由して)二次体の整数論として説明される。
体論を展開して一般数体の理論を作り、代数的整数論の基本の枠組みができる。

(3) 相互法則と楕円関数

アイゼンシュタインは、円周等分方程式論に基づいた平方剰余の相互法則の証明(ガウス)を踏まえて、レムニスケート関数の等分式に基づいた四次剰余の相互法則の証明をおこなった。

(4) クロネッカー

クロネッカーは係数の範囲を設定した上でアーベル方程式を構成するという問題を考える。

  • 整数係数のアーベル方程式の根は円周等分方程式の根の有理式で書ける(=有理数体のアーベル拡大は円分体の部分体である)(クロネッカーヴェーバーの定理)。

これは、整数係数のアーベル方程式の根は指数関数の特殊値\exp(2\pi i /n)の有理式で表すことができるということでもある。さらに、ガウス整数を係数とするアーベル方程式の場合は、レムニスケートの等分方程式が同様の役割を果たすと主張した。
これによって、円周等分方程式やレムニスケートの等分の理論で平方剰余の相互法則や四次剰余の相互法則が証明される理由も説明される(平方剰余の法則は有理数体のアーベル拡大に関わり、四次剰余の法則はガウス数体のアーベル拡大に関わるから)。
そして「クロネッカーの青春の夢」と呼ばれる次の予想をおこなった。

  • 虚二次体を係数とするアーベル方程式の根は、虚数乗法を持つ楕円関数の変換方程式の根の有理式で書ける(→虚二次体のアーベル拡大は、1の巾根、楕円関数の等分値、特異母数の添加で得られる)。



ガウスの円周等分方程式とアーベルのアーベル方程式の理論を語り、その延長線上に開かれていく「クロネッカーの青春の夢」を紹介したが、相対アーベル数体の理論が「現代的の円理」と呼ばれる理由を解くまでには至らなかった。これを実行するためにはガウスによる2次と4次の相互法則の探究を語るだけでは不十分で、アイゼンシュタインによる楕円関数と相互法則の研究、クンマーによる高次冪剰余相互法則の探究、ハインリッヒ・ウェーバー虚数乗法論、クロネッカーの楕円関数論を次々と紹介し、ヒルベルトの「数論報告」と高木貞治類体論に説き及ばなければならない。大掛かりな構えを要する仕事であり、これからの数論史叙述の課題である。
(高瀬正仁ガウスの数論』ちくま学芸文庫p.377)

ガウスの数論 わたしのガウス (ちくま学芸文庫)

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ガウスの遺産と継承者たち

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