「ガロア理論についてのメモ 補遺: 補題の証明」で、補題1(デデキントの補題)と補題2(アルティンの補題)を証明したので、この文章では基本定理の証明をおこなう。
まずガロア拡大のいくつかの定義の同値性を証明して、それから基本定理の証明に入る。話の関係を図で示すと次のようになる。
補題1での場合:
ガロア拡大のいくつかの定義とその同値性
「がガロア拡大である」ことの定義は色々あるけど、次の三つについて同値性を証明する(先に書いておくと、この文章ではガロア拡大の定義に定義3を採用する)。
- Lのある自己同型群Gについて、
証明
1→2:
と取ればよい。
2→1:
体→群→体と行って戻ると大きくなるので
となる。一方、はを動かさないのでであり、が大小関係を逆転する写像なので
となる。(ガロア拡大の定義2)なので、(定義1)となる。
1→3:
補題1よりで、補題2よりなので合わせて
が成り立つ。
(ガロア拡大の定義1)なので、(定義3)となる。
3→1:
と置く。
群→体→群と行って戻ると大きくなるので
一方、体→群→体と行って戻ると大きくなるので
となり、は大小関係を逆転するので
よってが判り
が出る。一方、より
なので、となり、(定義1)となる。
(証明終わり)
以上でガロア拡大の三つの定義が同値であることが判った。以下では、ガロア拡大の定義として定義3を採用する。
補題3
基本定理の証明に必要になる次の定理を証明しておく。この文章では補題3と呼んでおく。
で、をで剰余類に分割する(剰余類の個数は個だったとする)。
このとき要素数の関係はとなる。
剰余類分割に使ったは、定義域をに制限すると、(MからLへの準同型でKを固定するもの)になる。しかもはM上に制限しても互いに全て異なっている(もしもM上で完全に一致するなら同じ剰余類に入っていないといけないので)。したがってとなる。
また補題1により
が判る。一方、拡大次数については、
が常に成り立つ(ベクトル空間の基底を考えることにより)。
ここまではがガロア拡大であるかどうかに関係なく成り立っている。
がガロア拡大なので、である。
この等式を満たすためには、補題1から導かれた式がどれも等式で成り立たないといけない。とくに。したがってはガロア拡大である。
(証明終わり)
この補題3の証明には、補題2を使っていない(ガロア拡大の定義に定義3を採用しているなら)。
基本定理1
基本定理は、ガロア拡大のとき
- 体→群→体で元に戻る
- 群→体→群で元に戻る
の二つからなるけど、その半分、体→群→体で元に戻る、つまりを証明する。
基本定理1
がガロア拡大なら、の中間体について
証明
補題3よりはガロア拡大である。したがって「ガロア拡大の定義1」よりとなる。
(証明終わり)
別証:
とおく。
群→体→群と行って戻ると元より大きくなるので
- (1)
同じく体→群→体と行って戻ると元より大きくなるので
写像は大小関係を逆転するので、
- (2)
(1)と(2)より
となる(これはガロア拡大かどうかに関わらず成り立つ基本的性質の一つで、「ガロア拡大の同値性3→1」でも同じことを証明している)。
がガロア拡大なので、補題3よりとはどちらもガロア拡大となり、およびとなる。よって
となる。なのでで、
となる。つまりは拡大されていない。
よってとなる。
(別証終わり)
基本定理1の証明には補題2を使っていない(ガロア拡大の定義に定義3を採用している場合)。
追記: ガロア拡大のその他の定義について
多項式が絡むタイプのガロア拡大の定義を省略したけど、追加して書いておく。省略した一番の理由はその辺りのことをちゃんと理解できていないからなのだけど、理解するためにまとめてみる。
がガロア拡大である:
- その1:
- その2: Lのある自己同型群Gについて、
- その3:
- その4(追加): は正規拡大かつ分離拡大である。
- その5(追加): は、上のある分離多項式の最小分解体である。
(その5は、方程式が代数的に解けるかどうかという話に関係する。方程式に対しての分解体を考えるとガロア拡大になる(複素数の範囲で考えている場合、分離性は自動的に成立する)。そのため基本定理が成立し、方程式が解けるかどうか(=解が得られるように体を拡大していけるか)の話は自己同型群の話に移して論じることができる)
「正規拡大」も「分離拡大」も定義の仕方が複数あって、どう扱って良いのか判らない。そもそも同値性をどう証明していいのか判らない部分が多い。
分離拡大
「が分離拡大」の定義、あるいはそれと同値な命題:
- その1: 任意のについて、は上で分離的である。
- が上で分離的その1: の上の最小多項式が重根を持たない。
- が上で分離的その2: の共役元は全部で(=内に)個ある。
- が上で分離的その3:
- その2:
- その3: は、上分離的な元から生成される。
他のガロア拡大の定義との関係
集合の包括関係とデデキントの補題から
は常に成り立つ。左側が等式になる場合が「正規拡大3'」、右側が等式になる場合が「分離拡大2」になる。また両方が等式になると「ガロア拡大3」が成り立つ。したがって
- ガロア拡大3 = 正規拡大3' + 分離拡大2
となる。またたぶん
- ガロア拡大5 ≒ 正規拡大4 + 分離拡大3
と思ってよい。
分離拡大をどう扱うのか
例えば複素数の範囲で考えると必ず分離拡大になる。そうすると分離拡大の話にはあまり触れないのが良いような気もする。とはいっても「分離拡大についてはとりあえず無視していい」とか言われても、どう無視していいのかよく判らなくてかえって混乱を招いたり。
あと有限体については触れるのがいいのかどうなのか。有限体の場合も分離拡大になるという話があった方が判り良くなるのか、わざわざ触れると内容が増えて面倒になるのか。