ガロア理論についてのメモ 補遺2: 基本定理の証明

「ガロア理論についてのメモ 補遺: 補題の証明」で、補題1(デデキント補題)と補題2(アルティン補題)を証明したので、この文章では基本定理の証明をおこなう。

まずガロア拡大のいくつかの定義の同値性を証明して、それから基本定理の証明に入る。話の関係を図で示すと次のようになる。

それと、補題1と補題2は何度も使うので再掲しておく。

補題1(デデキント)
拡大L/KL'/Kについて \left|{\rm Hom}(L\to L',{\rm fix}K)\right| \leq [L/K ]

補題1でL'=Lの場合:  \left|{\rm Aut}(L/K)\right| \leq [L/K ]

補題2(アルティン)
自己同型群 {\rm Aut}(L/K)の部分群 Hについて、 [ L/L\hat{}H ] \leq |H|

ガロア拡大のいくつかの定義とその同値性

L/Kガロア拡大である」ことの定義は色々あるけど、次の三つについて同値性を証明する(先に書いておくと、この文章ではガロア拡大の定義に定義3を採用する)。

  1.  L\hat{}{{\rm Aut}(L/K)} = K
  2. Lのある自己同型群Gについて、 L\hat{}G = K
  3.  |{\rm Aut}(L/K)| = [L/K]
証明

1→2:
 G={\rm Aut}(L/K)と取ればよい。
2→1:
K→群 {\rm Aut}(L/K)→体L\hat{}{\rm Aut}(L/K)と行って戻ると大きくなるので

  •  L\hat{}{\rm Aut}(L/K) \supset K

となる。一方、GKを動かさないので G \subset {\rm Aut}(L/K)であり、x \mapsto L\hat{}xが大小関係を逆転する写像なので

  •  L\hat{}G \supset L\hat{}{\rm Aut}(L/K)

となる。 L\hat{}G = K(ガロア拡大の定義2)なので、 L\hat{}{{\rm Aut}(L/K)} = K (定義1)となる。
1→3:
補題1より \left|{\rm Aut}(L/K)\right| \leq [L/K] で、補題2より [L/L\hat{}{\rm Aut}(L/K) ] \leq \left| {\rm Aut}(L/K) \right| なので合わせて

  •  [L/L\hat{}{\rm Aut}(L/K) ] \leq \left| {\rm Aut}(L/K) \right| \leq  [L/K]

が成り立つ。
 L\hat{}{{\rm Aut}(L/K)} = K (ガロア拡大の定義1)なので、 |{\rm Aut}(L/K)| = [L/K] (定義3)となる。
3→1:
 {\rm Aut}(L/K)=Hと置く。
 H→体 L\hat{}H→群 {\rm Aut}(L/L\hat{}H)と行って戻ると大きくなるので

  •  H \subset {\rm Aut}(L/L\hat{}H)

一方、体 K→群{\rm Aut}(L/K)=H→体 L\hat{}Hと行って戻ると大きくなるので

  •  L\hat{}H \supset K

となり、 x \mapsto {\rm Aut}(L/x)は大小関係を逆転するので

  •  {\rm Aut}(L/L\hat{}H) \subset {\rm Aut}(L/K) = H

よって{\rm Aut}(L/K) = {\rm Aut}(L/L\hat{}H)が判り

  •  \left|{\rm Aut}(L/K)\right| = \left|{\rm Aut}(L/L\hat{}H)\right|

となる。
補題1より  \left|{\rm Aut}(L/L\hat{}H)\right| \leq [ L/L\hat{}H ]で、また\left|{\rm Aut}(L/K)\right| = [L/K](ガロア拡大の定義3)なので、

  •  [L/K] \leq [L/L\hat{}H]

が出る。一方、 L \supset L\hat{}H \supset Kより

  •   [L/L\hat{}H] \leq [L/K]

なので、 [L/K] = [L/L\hat{}H]となり、K=L\hat{}H=L\hat{}{\rm Aut}(L/K)(定義1)となる。
(証明終わり)
以上でガロア拡大の三つの定義が同値であることが判った。以下では、ガロア拡大の定義として定義3を採用する。

補題3

基本定理の証明に必要になる次の定理を証明しておく。この文章では補題3と呼んでおく。

補題3
 L \supset M \supset Kがあり、L/Kガロア拡大ならL/Mガロア拡大である。

 {\rm Aut}(L/L)  =\{e\} \subset {\rm Aut}(L/M) \subset {\rm Aut}(L/K)で、{\rm Aut}(L/K){\rm Aut}(L/M)で剰余類に分割する(剰余類の個数はl個だったとする)。
 {\rm Aut}(L/K)= \sigma_1 {\rm Aut}(L/M) \cup \sigma_2 {\rm Aut}(L/M) \cup \ldots \cup \sigma_l {\rm Aut}(L/M)
このとき要素数の関係は \left|{\rm Aut}(L/K) \right| = \left|{\rm Aut}(L/M) \right| \cdot lとなる。
剰余類分割に使った\sigma_1,\cdots,\sigma_l \in {\rm Aut}(L/K)は、定義域をMに制限すると、 {\rm Hom}(M\to L,{\rm fix} K)(MからLへの準同型でKを固定するもの)になる。しかも\sigma_1,\cdots,\sigma_lはM上に制限しても互いに全て異なっている(もしもM上で完全に一致するなら同じ剰余類に入っていないといけないので)。したがってl \leq \left|{\rm Hom}(M \to L, {\rm fix}K) \right|となる。
また補題1により

  •  \left| {\rm Aut}(L/K) \right| \leq [L/K ]
  •  \left| {\rm Aut}(L/M) \right| \leq [L/M ]
  •  l \leq \left|{\rm Hom}(M \to L, {\rm fix}K) \right| \leq [M/K ]

が判る。一方、拡大次数については、

  •  [L/K ] = [ L/M ] [ M/K ]

が常に成り立つ(ベクトル空間の基底を考えることにより)。
ここまではL/Kガロア拡大であるかどうかに関係なく成り立っている。
 L/Kガロア拡大なので、 \left| {\rm Aut}(L/K) \right| = [L/K ] である。
この等式を満たすためには、補題1から導かれた式がどれも等式で成り立たないといけない。とくに \left| {\rm Aut}(L/M) \right| = [L/M ] 。したがって L/Mガロア拡大である。
(証明終わり)
この補題3の証明には、補題2を使っていない(ガロア拡大の定義に定義3を採用しているなら)。

基本定理1

基本定理は、ガロア拡大のとき

  • 体→群→体で元に戻る
  • 群→体→群で元に戻る

の二つからなるけど、その半分、体→群→体で元に戻る、つまり M \mapsto {\rm Aut}(L/M) \mapsto L\hat{} {\rm Aut}(L/M) = Mを証明する。

基本定理1
L/Kガロア拡大なら、L/Kの中間体MについてL\hat{} {\rm Aut}(L/M) = M

証明

補題3よりL/Mガロア拡大である。したがって「ガロア拡大の定義1」より L\hat{}{{\rm Aut}(L/M)} = M となる。
(証明終わり)
別証:
{\rm Aut}(L/M) = Hとおく。
H→体L\hat{}H→群{\rm Aut}(L/L\hat{}H)と行って戻ると元より大きくなるので

  • {\rm Aut}(L/M) = H \subset {\rm Aut}(L/L\hat{}H) (1)

同じく体 M→群{\rm Aut}(L/M)=H→体 L\hat{}Hと行って戻ると元より大きくなるので

  •   L\hat{}H \supset M

写像 x \mapsto {\rm Aut}(L/x)は大小関係を逆転するので、

  •  {\rm Aut}(L/L\hat{}H) \subset {\rm Aut}(L/M) (2)

(1)と(2)より

  •  {\rm Aut}(L/L\hat{}H) = {\rm Aut}(L/M)

となる(これはガロア拡大かどうかに関わらず成り立つ基本的性質の一つで、「ガロア拡大の同値性3→1」でも同じことを証明している)。
L/Kガロア拡大なので、補題3よりL/L\hat{}HL/Mはどちらもガロア拡大となり、 [L/L\hat{}H ] = \left|{\rm Aut}(L/L\hat{}H)\right| および [L/M ] = \left|{\rm Aut}(L/M)\right| となる。よって

  •  [L/L\hat{}H ] = [L/M]

となる。 L \supset L\hat{}H \supset Mなので [L/M] = [L/L\hat{}H][L\hat{}H/M] で、

  •  [L\hat{}H/M] =1

となる。つまり L\hat{}H/Mは拡大されていない。
よって  L\hat{} {\rm Aut}(L/M) = L\hat{}H = Mとなる。
(別証終わり)
基本定理1の証明には補題2を使っていない(ガロア拡大の定義に定義3を採用している場合)。

基本定理2

基本定理のもう半分、群→体→群で元に戻ること、 H \mapsto L\hat{}H \mapsto {\rm Aut}(L/L\hat{}H) = Hを証明する。

基本定理2
{\rm Aut}(L/K)の部分群Hについて {\rm Aut}(L/L\hat{}H) = H

証明

群→体→群と行って戻ってくると大きくなるので

  •  H \subset {\rm Aut}(L/L\hat{}H)

となる。当然 \left| H\right| \leq \left|{\rm Aut}(L/L\hat{}H) \right| となっている。
補題1より \left|{\rm Aut}(L/L\hat{}H)\right| \leq [ L/L\hat{}H] となり、補題2より [L/L\hat{}H] \leq \left|H \right| となるので、あわせて \left|{\rm Aut}(L/L\hat{}H)\right| \leq \left| H \right| が判る。上の不等式と合わせて

  •  \left|{\rm Aut}(L/L\hat{}H)\right| = \left| H \right|

となる。したがって {\rm Aut}(L/L\hat{}H) = Hとなる。
(証明終わり)
基本定理1と基本定理2を合わせると、ガロア拡大では、拡大体の中間体と自己同型群の部分群が1対1に対応することが判る。

追記: ガロア拡大のその他の定義について

多項式が絡むタイプのガロア拡大の定義を省略したけど、追加して書いておく。省略した一番の理由はその辺りのことをちゃんと理解できていないからなのだけど、理解するためにまとめてみる。

 L/Kガロア拡大である:

  • その1:  L\hat{}{{\rm Aut}(L/K)} = K
  • その2: Lのある自己同型群Gについて、 L\hat{}G = K
  • その3:  |{\rm Aut}(L/K)| = [L/K]
  • その4(追加):  L/Kは正規拡大かつ分離拡大である。
  • その5(追加): Lは、K上のある分離多項式f(x) \in K[x] の最小分解体である。

(その5は、方程式が代数的に解けるかどうかという話に関係する。方程式f(x)=0に対してf(x)の分解体を考えるとガロア拡大になる(複素数の範囲で考えている場合、分離性は自動的に成立する)。そのため基本定理が成立し、方程式が解けるかどうか(=解が得られるように体を拡大していけるか)の話は自己同型群の話に移して論じることができる)

「正規拡大」も「分離拡大」も定義の仕方が複数あって、どう扱って良いのか判らない。そもそも同値性をどう証明していいのか判らない部分が多い。

正規拡大

L/Kが正規拡大」の定義、あるいはそれと同値な命題:

  • その1: 任意の \alpha \in Lについて、 \alphaに対するK上の最小多項式 F_{\alpha}(x) \in K[x] Lで一次式の積に分解する。
  • その2: 任意の \alpha \in Lについて、 \alpha K上の共役元は全てLに含まれる(ただし「\alpha, \betaK上共役」とは、 \alpha,\betaK上の最小多項式が一致すること。したがって\alphaの共役元は、\alphaの最小多項式の解になるもの)。
  • その3: {\rm Aut}(L/K) = {\rm Hom}(L\to \bar{K},{\rm fix }K)
  • その3': \left|{\rm Aut}(L/K) \right|= \left|{\rm Hom}(L\to \bar{K},{\rm fix }K)\right|
  • その4: Lは、K上のある多項式f(x) \in K[x] の最小分解体である。
分離拡大

L/Kが分離拡大」の定義、あるいはそれと同値な命題:

  • その1: 任意の\alpha \in Lについて、\alphaK上で分離的である。
    • \alphaK上で分離的その1: \alphaK上の最小多項式が重根を持たない。
    • \alphaK上で分離的その2: \alphaの共役元は全部で(=\bar{K}内に)[K(\alpha)/K ] 個ある。
    • \alphaK上で分離的その3: \left| {\rm Hom}(K(\alpha) \to \bar{K}, {\rm fix }K) \right| = [K(\alpha)/K]
  • その2: \left| {\rm Hom}(L\to \bar{K},{\rm fix }K)\right| = [L/K]
  • その3: Lは、K上分離的な元から生成される。
他のガロア拡大の定義との関係

集合の包括関係とデデキント補題から
\left|{\rm Aut}(L/K) \right| \leq \left|{\rm Hom}(L\to \bar{K},{\rm fix }K)\right| \leq [L/K]
は常に成り立つ。左側が等式になる場合が「正規拡大3'」、右側が等式になる場合が「分離拡大2」になる。また両方が等式になると「ガロア拡大3」\left|{\rm Aut}(L/K) \right| = [L/K]が成り立つ。したがって

となる。またたぶん

と思ってよい。

ガロア拡大の意味

ガロア拡大というのは、自己同型写像が充分(最大限)たくさんあるような拡大を表している。なので逆に、拡大L/Kガロア拡大でないというのは、

  1. 自己同型群{\rm Aut}(L/K)に含まれる自己同型写像が充分に無い(定義3)。
  2. 写像が足りていないので、Lの要素のうちで{\rm Aut}(L/K)のどの写像でも動かないものがKの要素以外にも存在する(定義1,2)。
  3. L/Kの自己同型写像が足りない原因は、
    • Lを定義域とする同型写像のなかに、自己同型写像ではないものがあるから。これは、共役元がLの外にあるために同型写像が「自己」同型写像ではなくなる場合。= 正規拡大でない。
    • Lを定義域とする同型写像が足りないから。最小多項式が重根を持つ場合、共役元の数が多項式の次数より少なくなり同型写像の個数が減る(同型写像は各要素をその共役元に写すので、共役元が減れば同型写像も減る)。= 分離拡大でない。
分離拡大をどう扱うのか

例えば複素数の範囲で考えると必ず分離拡大になる。そうすると分離拡大の話にはあまり触れないのが良いような気もする。とはいっても「分離拡大についてはとりあえず無視していい」とか言われても、どう無視していいのかよく判らなくてかえって混乱を招いたり。
あと有限体については触れるのがいいのかどうなのか。有限体の場合も分離拡大になるという話があった方が判り良くなるのか、わざわざ触れると内容が増えて面倒になるのか。

無限次拡大の扱い

この文章では完全に有限次拡大を前提にしている(無限次拡大のことは全く頭になかった)。でも無限次拡大を踏まえた説明があった方が良いのか、それともミニマムな内容を考えるという趣旨だったのだし無限次拡大のことは忘れてしまって良いのか。