目次
1. ニュートン法との類似
ヘンゼルの補題といっても色々な述べられ方があるけれどここでは次のものを考えて、ニュートン法との類似を見る。
まずこの補題をp進距離的に解釈する。p進距離の距離感では、とは、を満たすとき「近い」。さらに、より大きなでを満たせば満たすほど「より近い」。定量的には、が成り立つ最大のをとって、をととのp進距離とする。
例えば通常の距離感で考えると、数列はだんだんに近づいていき、はだんだんから離れていく。しかしp進距離の距離感では、はだんだんに近づいていく。(cf.p進展開について)
このp進距離感を前提にして考えると、補題の前提である
このように言い換えるとニュートン法との類似が見えてくる。
ニュートン法では、
そしてこれと類似の手続きによってヘンゼルの補題が証明できる。
ただし整数の世界では割り算ができないので、の部分を修正する必要がある。そこで次の性質を使う。
したがってを求めるためには、まずユークリッドの互除法によって
一つ前のステップでとなっていれば、
またどんな多項式についても、ならばとなることを使うと、より
あとはと0とのp進距離を評価する必要があるけれど、この評価もニュートン法の場合と類似のやり方でできる。
ニュートン法の証明では、を2次までテーラー展開したものを考える。
よって提示した手続きにより、各ステップで
(補足) の場合
上の証明では、となることを前提している。しかし付加的な条件を付け加えれば、となる場合にも拡張することができる。
ヘンゼルの補題の証明では、ユークリッドの互除法を使っての逆数の役割をする、つまり
の場合は、次のようにする。
となる最大のをとり、とする。このとに対してユークリッドの互除法を適用し
そこで初期値の時点での値がもっとに近い場合を考える。
2. 完備化とp進数体
いったん普通の距離に戻って、に通常のニュートン法を適用する。
x0 = 1 ; = 1 x1 = 3/2 ; = 1.5 x2 = 17/12 ; = 1.4166…… x3 = 577/408 ; = 1.4142156…… x4 = 665857/470832 ; = 1.4142135623746…… x5 = 886731088897/627013566048 ; = 1.4142135623730950488016896…… ; √2 = 1.4142135623730950488016887242……
という数列が得られる。この数列の各項はどれも有理数だけど、有理数の範囲では収束せず無理数に収束する。
このことを踏まえて、多項式にヘンゼルの補題を適用してみる。
平方剰余の第2補充則によると、はのときに解を持つので、例としてのときを考える。
を取ると、となる。
ヘンゼルの補題の証明でおこなった手続きを適用していくとによって
x0 = 3 x1 = -39 x2 = -9153 x3 = -502673595 x4 = -1516084459164017733
という数列が得られる。
この数列がを満たしていることは、7進数の形で表して、さらに負数は7の補数表現にすると見やすい。
; 7進数での表示 x0 = 3 = ...000000000000000000000000003 x1 = -54 = ...666666666666666666666666613 x2 = -35454 = ...666666666666666666666631213 x3 = -15312440454 = ...666666666666666651354226213 x4 = -2500006420353054050454 = ...666664166660246313612616213 ...536623164112011266421216213
さらにも7進表示すれば、を満たしていることも判る。
; 7進数での表示 x0*x0 = 12 x1*x1 = 4302 x2*x2 = 2035045002 x3*x3 = 311112161151641260002 x4*x4 = 10240050622025434663022515053464424103300002 ...00000000000000000000000000000000000000000002
この数列はp進距離で見るとコーシー列になっている。しかし整数の範囲でも有理数の範囲でも収束先は存在しない。
そこでコーシー列(p進距離のもとでのコーシー列)が必ず収束するように、コーシー列ごとに新たな数を追加する。このときコーシー列の収束先が同じなら追加する数は同じものと考える。(このような操作は「完備化」と言われる)。ここまでは整数の数列しか考えていなかったけれど、有理数に対してもp進距離は考えられるので有理数のコーシー列も考えてそれらの収束先も付け加える。
その結果、p進数体と呼ばれるものが得られる。通常の距離感での完備化は「有理数だけが並んでいる数直線があって、その隙間をすべて埋める」というイメージになるけれど、p進距離感のもとでは有理数は直線的に並んでいるわけではないので完備化はイメージしにくい。
完備化すれば、上の数列はあるに収束して、を満たす。なのでと表記することにする(当然、実数のとは異なる)。
同様に考えると、に限らずとなる素数について、
(補足) p進距離感についての例
通常の距離感では当たり前の感覚がp進距離でも通用するとは限らない。例えば次のような例を考える。
ゼータ関数は、負の整数で
ここで負の整数について
そこで負の整数でとなっている関数を、からへの連続関数に拡張できるか、を考えてみる(当然ここでの連続性はp進距離感での連続性)。
は通常の距離感で見るとというまばらな点についてしか定義されていない。そのため通常の距離感に引きずられると、は連続関数としてかなり好き勝手に拡張できるように見えてしまう(つまり連続関数を一意に決めるためには、判っている値が少なすぎるように見える)。
しかしp進距離感のもとでは負整数は密に分布しているので、これらの点だけからでも連続性について考えることができる。そしてこの場合、は連続関数には拡張できない。なぜかというと、クンマーの合同式にという余計な条件が入っているためとが近くなってもとが近くなるとは限らないので。
「条件を満たす連続関数は作れない」が結論では面白くないので、条件をゆるめる。
すべての負整数での値を関数の満たす条件にするのではなく、適当に1点を取り、 となる整数について
条件を与えている点が前の設定よりもさらにまばらになっているように見えるけれど、これらの点だけでもp進距離感ではまばらではない。
例えばとなる整数でのを考えてみる。
そしてなのでとなり、関数の連続性から
そしてが負の整数のときに限らず、のある範囲で連続関数の値が定まってしまう。このことは、p進距離感が通常の距離感とズレていることの一例になっている。