ガウスの種の理論

「群の表現論の初期の歴史について」を書くつもりが、出だしの部分が肥大化した。

  1. 問題の背景
  2. 2次形式の指標
  3. 指標が定義できることの証明
  4. 2次形式の同値類
  5. 類に対する指標
  6. 種の性質
  7. 2次形式の合成
  8. 種の性質の証明
  9. 2次形式がどの数を表せるかの判定
  10. 参考文献
  11. 追記: 類体論の証明との比較

問題の背景

整数係数の2元2次形式

 f(x,y)=ax^2+bxy+cy^2 \quad = \quad (x \, y) \left(\begin{array}{cc}a & b/2 \\ b/2 & c \end{array}\right)\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)
によって、どんな整数(特に素数)nが、n = f(x, y) の形で表すことができるか、という問題が背景にある。(ガウスは係数bが偶数の場合に限定しているけれど、ここでは奇数の場合も含めて扱う)。

※ 例えば、x2+Ny2の形の2元2次形式について、

  • x2+y2は、4で割ったときの余りが1の素数を必ず表せる。3余る素数は表せない。5=12+22、13=22+32、29=22+52 ……。
  • x2+2y2は、8で割ったときの余りが1または3の素数を必ず表せる。5または7余る素数は表せない。11=32+2・12、17=32+2・22、19=12+2・32 ……。
  • x2+3y2は、12で割ったときの余りが1または7の素数(= 3で割ったときの余りが1の素数)を必ず表せる。2余る素数は表せない。7=22+3・12、13=12+3・22、19=42+3・12 ……。

となる。x2+Ny2で表せる素数がこれと同様のパターンになる(素数pを表せるかどうかが、ある数でpを割った余りによって完全に決まる)Nは65個見つかっている。(idoneal numberと呼ばれる数についてこのパターンが成り立つ)。

2次形式 f(x,y) = a2+bxy+c2に対して、その判別式 D=b2-4ac が重要。また2次形式の係数a、b、cがgcd(a,b,c)=1となっているものを原始形式と呼ぶ。以下、原始形式だけを考える。
指標は2次形式の同値類に対して定義されるので2次形式の間の同値を定義する必要があるけど、それは後まわしにする。

2次形式の指標

判別式Dを割る奇素数pそれぞれに対して1個ずつ指標が定義され、さらにDの値に応じて0〜2個の指標が定義される。

素数に関する指標

次の性質が、指標を定義するもとになる。

pは、f(x, y)の判別式Dを割り切る奇素数(= Dの約数になっている奇素数)とする。このとき、f(x, y)によって表せる数nで、pで割り切れないもの(言い換えるとgcd(n,p)=1となるもの)のどれにたいしても、(n/p)は同じ値をとる。(ここで(n/p)はルジャンドル記号)。
つまりf(x, y)で表せる数でpの倍数でないものは、どれもがpの平方剰余になるか、どれもがpの平方剰余にならないか、のどちらかになる。
この性質により、判別式がDの2次形式f(x,y)に対して、それが表すn(でpの倍数でないもの)の選び方によらず(n/p)の値が一意に決まることになり、
χp(f) = (n/p)
のように、指標χpのfに対する値が決まる。


例えばf(x, y) = 6x2+385y2 とする。判別式は D = -9240 = -23×3×5×7×11 なので、(n/3)、(n/5)、(n/7)、(n/11)によって指標が定義される。
6x2+385y2が表せる数 6、385、24、391、1540、54、409、……のうちpで割れない数について(n/p)を計算してみると、
(385/3) = (391/3) = (1540/3) = (409/3) = … = 1
(6/5) = (24/5) = (391/5) = (54/1) = … = 1
(6/7) = (24/7) = (391/7) = (54/1) = … = -1
(11/7) = (24/11) = (391/11) = (54/11) = … = -1

のようになっている。
よって、

χ3(f) = 1、χ5(f) = 1、χ7(f) = -1、χ11(f) = -1
のように値が決まる。
同じく判別式の値が-9240であるg(x, y)= 2x2+1155y2の指標を考える。
表せる数2、1155、8、1157、4620、18、……について (n/3)、(n/5)、(n/7)、(n/11)を計算すると
(2/3) = (8/3) = (1157/3) = (18/3) = … = -1
(2/5) = (8/5) = (1157/5) = (18/5) = … = -1
(2/7) = (8/7) = (1157/7) = (18/7) = … = 1
(2/11) = (8/11) = (1157/11) = (18/11) = … = -1
となるので
χ3(g) = -1、χ5(g) = -1、χ7(g) = 1、χ11(g) = -1
のように値が決まる。

2のベキ乗に関する指標

素数の場合と比べると、2(のベキ乗)についての指標は、場合分けがあってややこしい。
Dを割り切る奇素数pに対しては、 f(x,y)が表せる数でpで割れないものn について、(n/p)の値が一定になった。
2のベキ乗については、f(x,y)が表せる奇数nについてある関数の値が一定になる。どの関数についてかは、Dの値によって異なる。
まず、2次形式の判別式 D (= b2-4ac) は、xyの係数bが偶数のときD≡0(mod 4)になり、奇数のときD≡1(mod 4)となる。
そして2のベキ乗についての指標を持つのはD≡0(mod 4)の場合だけ。
さらにD/4のmod 4やmod 8での剰余に応じて、どの関数を使って指標が定義できるかが異なっていて、次の表のようになる。
ここで、表に出てくる関数α(n)、β(n)は、mod 4、mod 8で決まる関数で、α(n) = (-1)(n-1)/2、β(n) = (-1)(n2-1)/8

D/4 指標 定義される指標の個数
1 (mod 4) なし 0
2 (mod 4)  2 (mod 8) β(n) 1
2 (mod 4)  6 (mod 8) α(n)β(n) 1
3 (mod 4) α(n) 1
0 (mod 4)  4 (mod 8) α(n) 1
0 (mod 4)  0 (mod 8) α(n)、 β(n) 2


素数のところで例に出したf(x, y) = 6x2+385y2は、D/4 = -2310 ≡ 2 (mod 8)なので、β(n)= (-1)(n2-1)/8の値が一定になる。
f(x, y)の表す奇数385、391、409、3465、……についてβ(n)の値を計算すると、
β(395) = β(391) = β(409) = β(3465) = … = 1
となる。
同じ判別式を持つ g(x, y) = 2x2+1155y2も、β(n)から指標が定義される。
表すことのできる奇数1155、1157、1163、10395、……について計算すると
β(1155) = β(1157) = β(1163) = β(10395) = … = -1
となる。

指標が定義できることの証明

Dの値に応じて、(n/p)やα(n)などの値が一定になることは、数式の変形で証明できるので、一応証明をしておく。
(証明を飛ばす)

素数に対して
判別式Dを割り切るpについて、f(x,y)=ax2+bxy+cy2が表す二つの数m、nで pを割り切らないものについて、(m/p) = (n/p)となることを証明する。
ルジャンドル記号の性質( とる値が±1か0であることと、(mn/p)=(m/p)(n/p)となること )により、(mn/p) = 1を証明すればよい。

mとnが

m = aP2+bPQ+cQ2
n = aR2+bRS+cS2
と表されているとすると、
m\cdot n = \left(aPQ+\frac{b}{2}(PS+QR)+cQS\right)^2-\frac{D}{4}(PS-QR)^2
となる。
bが偶数が場合は b/2 も D/4 も整数になるのだけど、bが奇数の場合も扱っているので、両辺を4倍しておく。
4m・n = (2aPQ + b(PS+QR) + 2cQS)2 - D(PS-QR)2
この式から
4m・n ≡ (2aPQ + b(PS+QR) + 2cQS)2 (mod D)
となり、合同方程式
X2 ≡ 4m・n (mod D)
が解を持つことが分かる。
すると、Dを割り切る奇素数pに対しても
X2 ≡ 4m・n (mod p)
が解を持つので(4mn/p) = 1となる。( gcd(4mn, p) =1 なので (4mn/p) = 0ではない)。
(4mn/p) = (2/p)2(m/p)(n/p) = (m/p)(n/p)なので、(m/p)(n/p) = 1 となる。よって (m/p) = (n/p) が言えた。

(証明終わり)


2のベキ乗に対して
2のベキ乗で剰余を取った時の、平方剰余の方程式
X2 ≡ n (mod 2k)
を考える。
2で剰余を取った X2 ≡ n (mod 2) はnの値に関係なく常に解を持つので、それ以外の場合を考えると、解を持つかどうかは次のようになっている。

合同方程式 解を2個持つ 解を持たない
X2 ≡ n (mod 4) n ≡ 1 (mod 4) のとき n ≡ 3 (mod 4) のとき
X2 ≡ n (mod 2k)  (k≧3) n ≡ 1 (mod 8) のとき n ≡ 3、5、7 (mod 8) のとき

解があるかないかが mod 4、mod 8で決まるので、α(n) = (-1)(n-1)/2、β(n) = (-1)(n2-1)/8という関数を考える。ここでnは奇数とする。
α(n)、β(n)は、値は1か-1を取り、

  • α(n) = 1  ⇔  n ≡ 1 (mod 4)  ⇔  n ≡ 1、5 (mod 8)
  • β(n) = 1  ⇔  n ≡ 1、7 (mod 8)
  • α(n)β(n) = 1  ⇔  n ≡ 1、3 (mod 8)
  • α(m・n) = α(m)・α(n)
  • β(m・n) = β(m)・β(n)

といった性質を持っている。
nが平方剰余になるかどうかを、α(n)とβ(n)を使って表すこともできる。

  • X2 ≡ n (mod 4) が解を持つ  ⇔  α(n) = 1
  • X2 ≡ n (mod 8) が解を持つ  ⇔  α(n) = 1 かつ β(n) = 1

これらをふまえて、指標を考える。


2のベキ乗についての指標を定義できるのは Dが4で割り切れる場合(= bが偶数の場合)なので、以下 bは偶数でDは4で割り切れる( つまりD/4が整数 )とする。
素数についての証明に出てきた、次のことをふたたび使う。

mとnが
m = aP2+bPQ+cQ2
n = aR2+bRS+cS2
と表されているとすると、
m\cdot n = \left(aPQ+\frac{b}{2}(PS+QR)+cQS\right)^2-\frac{D}{4}(PS-QR)^2
となる。
b/2、D/4が整数となる場合を考えているので、このとき次のことが言える。

  • m\cdot n = X^2-\frac{D}{4}Y^2 は、整数解を持つ。
  • X^2 \equiv m\cdot n \qquad \pmod {\frac{D}{4}} は、解を持つ。
  • D/4 の任意の約数dについても、 X2 ≡ m・n (mod d) は、解を持つ。

これらのことを利用して、指標を定義していく。以下、mとnは奇数とする。

D/4 ≡ 0 (mod 4)の場合: α(n)
D/4 ≡ 0 (mod 4)の場合、4がD/4の約数なので、
X2 ≡ m・n (mod 4)
が解を持つ。よって、α(m・n) = 1 となり、α(m・n) = α(m)・α(n) なので、α(m) = α(n) となる。
したがって、fで表すことのできる奇数nの選び方によらずα(n)の値が一意に決まる。
D/4 ≡ 0 (mod 8)の場合: α(n)、β(n)
D/4 が4だけでなく8でも割れる場合、
X2 ≡ m・n (mod 8)
が解を持つので、α(m・n) = 1、β(m・n) = 1 となる。D/4 ≡0(mod 4)の場合と同様にして、α(n)とβ(n)の両方について値が一意に決まることが分かる。
素数の場合との対応を考えると、2ベキについての指標はこれで終わりとなりそうだけど、2次形式の表す数を観察してみると、D/4 ≡ 0(mod 4)以外の場合でも、表した値を mod 4やmod 8 で見た時に特定の余りだけが出てくることが観察される。
D/4 ≡ 1 (mod 4)の場合
2ベキについての指標はない。
D/4 ≡ 3 (mod 4)の場合: α(n)
m\cdot n = X^2-\frac{D}{4}Y^2 が整数解を持つので、この式のmod 4をとった
m・n ≡ X2 + Y2 (mod 4)
も解を持つ。 m・nが奇数なので、X2 + Y2 も奇数でないといけない。そうなるためにはXとYの一方が偶数でもう一方が奇数になる。そのとき X2 + Y2 ≡ 1 (mod 4)となるので、m・n ≡ 1 (mod 4)となる。
よって α(m・n)=1 となり、D/4≡0(mod 4)の場合と同じく、α(n) がnのとり方によらず一意に決まることが分かる。
D/4 ≡ 2 (mod 4)の場合は、mod 8でさらに二つに分ける。
D/4 ≡ 2 (mod 8)の場合: β(n)
m\cdot n = X^2-\frac{D}{4}Y^2 が整数解を持つので、この式のmod 8をとった
m・n ≡ X2 + 6Y2 (mod 8)
も解を持つ。m・nが奇数なので、Xは奇数となる。
偶数2≡0 (mod 8)、奇数2≡1 (mod 8)なので、X2≡1 (mod 8)、Y2≡0または1 (mod 8)となり、m・n ≡ 1または7 (mod 8)となる。どちらの場合でもβ(m・n)=1となり、上と同じ議論により、nのとり方に関係なくβ(n)の値が一意に決まる。
D/4 ≡ 6 (mod 8)の場合: α(n)β(n)
m\cdot n = X^2-\frac{D}{4}Y^2 が整数解を持つので、この式のmod 8をとった
m・n ≡ X2 + 2Y2 (mod 8)
も解を持つ。m・nが奇数なので、Xは奇数となる。
偶数2≡0 (mod 8)、奇数2≡1 (mod 8)なので、X2≡1 (mod 8)、Y2≡0または1 (mod 8)となり、m・n ≡ 1または3 (mod 8)となる。
どちらの場合でもα(m・n)β(m・n)=1となり、上と同じ議論により、nのとり方に関係なくα(n)β(n)の値が一意に決まる。
以上のように、D/4 (mod 4)、D/4 (mod 8)の値に応じて、0〜2個の指標が定義される。
(証明終わり)

2次形式の同値類

ここでいったん指標から離れて、2次形式の間の同値関係を考える。
D ≡ 0 (mod 4)または D ≡ 1 (mod 4)となるDを取ると、判別式の値がDとなるような2次形式は無数に存在する。その無限にある2次形式を同値類に分ける。

2次形式f(x, y)の変数x、yを、行列式が1の整数行列M=\left(\begin{array}{cc}s&t\\u&v \end{array}\right)

\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) \quad \overset{M}{\mapsto} \quad  \left(\begin{array}{c}sx+ty\\ux+vy\end{array}\right) \quad = M\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right)
と変換すると、f(x, y)は、
f(x,y) \quad \overset{M}{\mapsto} \quad (Mf)(x,y) = f(sx+ty, ux+ty)
と変換される。
この(Mf)(x, y) は Mの逆行列M-1 (行列式1の整数行列になる)によって f(x,y)に変換される。
このとき、f(x, y) = ax2+bxy+cy2と (Mf)(x, y) = a'x2+b'xy+c'y2は、

  1. 判別式の値が同じ。 b2-4ac = b'2-4a'c'
  2. 表すことのできる整数が同じ
  3. f(x, y)は原始2次形式( 係数a、b、cについてgcd(a, b, c)=1 ) ⇔ (Mf)(x,y)は原始2次形式

となる。そこで、二つの2次形式が、行列式1の整数行列による変換で移り合うとき、これらは同値であると定義する。
そして判別式がDであるような原始2次形式全体を、この同値関係によって同値類に分類する。(ここで D < 0 の場合は、a > 0となる2次形式だけを考える)。
すると判別式Dの原始2次形式は、有限個の(class) C1、C2、…、Chに分類される。(有限個になることは、簡約という操作により各2次形式が標準形(簡約形式と呼ばれる)に変換できることと、標準形の数が有限になることにより証明される)。類の個数のことを類数(class number)と呼ぶ。
行列式が-1の行列によって変数変換した場合でも、原始形式は原始形式に変換され、判別式も一致して、表せる数も一致する。しかし行列式が-1の行列で変換されるときも同値にしてしまうと、群構造を考えるところでうまくいかなくなってしまう。ax2+bxy+cy2とax2-bxy+cy2行列式-1の行列で変換し合うけど、同値になることもあればならないこともある。
判別式が-1の場合も考える場合は同値の定義を変える必要がある。(ザギヤー『数論入門』§8 注意、§10 問題4)

類に対する指標

判別式Dの2次形式f(x, y)があったとき、

  • Dを割り切る各奇素数p1、p2、p3…に対する(n/p1)、(n/p2)、(n/p3)、… (ルジャンドル記号)
  • D≡0(mod 4)の場合、α(n)、β(n)、 α(n)β(n)のうちの0〜2個

と、f(x, y)によって表せる数(のうちpや2で割り切れないもの)n1、n2、…を使って、指標の値

χ1(f) = (n1/p1)、…
χ2(f) = (n2/p2)、…
を定義できた。
また、ある類に含まれるどの2次形式をとっても、その2次形式を使って表すことのできる整数は同じになる。
そこで、類Cに含まれる2次形式f ∈Cを任意に一つ取り、そのf(x, y)で表せる数n1、n2、…によって
χ1(C) = (n1/p1)、…
χ2(C) = (n2/p2)、…
とすることで、類Cの指標の値が定義される。

ようやく種の話に到達した。
同値類と指標の話をまとめると

  1. 判別式の値Dを与える。
  2. 判別式Dの原始2次形式が、類C1、C2、…、Chに分割される。
  3. 判別式の値に応じて、1個以上の指標χ1、…χtが定義される。
  4. 各指標χiについて、各類Cjに対する指標の値χi(Cj)が定まる。

となる。
そして、類のうち、どの指標χiの値も同じになるものたちをひとまとめにして、それを(genus)と呼ぶ。
したがって、類の集まり {C1、C2、…、Ch} について、指標の値が全く同じもの同士をまとめると、

{{C11、…C1. }、{C21、…C2.}、…、 {Cg1、…Cg.}}
のように、種の集まりになる。

例1


判別式の値として、D= -756を取ってみる。
この場合、判別式Dが-756の原始形式(のうちa>0であるもの)全体が12個の同値類 {C1、C2、〜、C12} に分割される。
またD = -22×7×27 で、D/4 = -189 ≡ 3 (mod 4) なので、

  • χ1(C) = (n/7)
  • χ2(C) = (n/27)
  • χ3(C) = α(n) = (-1)(n-1)/2

の3個の指標が定義される。
各類について指標の値がどうなっているかを示すと次のようになっている。

種の個数は4 (= 23-1)個で、それぞれの種は3個の類を含んでいる。

類 (類の代表元)(n/7)(n/27)(-1)(n-1)/2
x2 + 189y2111
9x2 + 6xy + 22y2111
9x2 - 6xy + 22y2111
2x2 + 2xy + 95y21-1-1
11x2 + 6xy + 22y21-1-1
11x2 - 6xy + 22y21-1-1
7x2 + 27y2-11-1
10x2 + 2xy + 19y2-11-1
10x2 - 2xy + 19y2-11-1
14x2 + 14xy + 17y2-1-11
5x2 + 2xy + 38y2-1-11
5x2 - 2xy + 38y2-1-11

例2


D= -7392とする。
この場合、判別式Dが-7392の原始形式(のうちa>0であるもの)全体が、16個の同値類 {C1、C2、〜、C16} に分割される。
D = -25×3×7×11 で、D/4 ≡ 0 (mod 8) なので、

  • χ1(C) = (n/3)
  • χ2(C) = (n/7)
  • χ3(C) = (n/11)
  • χ4(C) = α(n) = (-1)(n-1)/2
  • χ5(C) = β(n) = (-1)(n2-1)/8

の五つの指標が定義される。
種の個数は16 (= 25-1)個で、それぞれの種は1個の類を含んでいる。

類 (類の代表元)(n/3)(n/7)(n/11)(-1)(n-1)/2(-1)(n2-1)/8
x2 + 1848y211111
4x2 + 4xy + 463y2111-11
21x2 + 88y211-11-1
43x2 + 2xy + 43y211-1-1-1
12x2 + 12xy + 157y21-111-1
7x2 + 264y21-11-11
28x2 + 28xy + 73y21-1-111
3x2 + 616y21-1-1-1-1
44x2 + 44xy + 53y2-1111-1
11x2 + 168y2-111-1-1
8x2 + 8xy + 233y2-11-111
8x2 + 231y2-11-1-11
33x2 + 56y2-1-1111
47x2 + 38xy + 47y2-1-11-11
24x2 + 77y2-1-1-11-1
24x2 + 24xy + 83y2-1-1-1-1-1

種の性質

さまざまな判別式の値Dについて、指標の値を調べて類を種へとまとめてみると、次のことが観察される。

  • 定義される指標の個数がt個のとき、種の総数は2t-1個になる。

そして、この性質よりも弱い主張である

  • 定義される指標の個数がt個のとき、種の総数は2t-1以下になる。

から、 平方剰余の相互法則の証明が得られる。

2次形式に関する思索のはじまりを告げる第15番目のメモに続いて、ガウスはたちまち頂点に到達した。2次形式の理論には平方剰余相互法則の証明の原理がひそんでいるが、それを明るみに出すことに成功したというのである。
……2次形式の研究を始めたと宣言したのが1796年6月22日であったから、わずか5日の後にはその根幹が把握されたことになる。
……「洗練されて現在の形になったのは1800年の春のことである」というのであるから、丸4年ほどかけて理論全体の姿を整えたのであろう。
(『ガウスの《数学日記》』)

平方剰余の相互法則のガウスの第2証明

「定義される指標の個数がt個のとき、種の総数は2t-1以下になる」ことを認めると、次のように相互法則が証明できる。(補充法則も証明できるのだけどそれは省略し、すでに証明されているものとする)。

平方剰余の相互法則
\left(\frac{p}{q}\right)\left(\frac{q}{p}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{p-1}{2}}
言い換えれば

  • p≡3 (mod 4) かつ q≡3 (mod 4) のとき、(p/q)(q/p) = -1
  • p≡1 (mod 4) または q≡1 (mod 4) のとき、(p/q)(q/p) = 1

ということを証明する。

p≡3 (mod 4) かつ q≡3 (mod 4) のとき:
(p/q) = -(q/p) となることを証明する。
判別式 D = 4pq を取る。p≡3(mod 4)、q≡3(mod 4)なので、D/4 ≡1 (mod 4)となる。
このとき定義される指標は、χ1(C) = (n/p)、χ2(C) = (n/q)の二つ。よって生じる種の個数は22-1 = 2個以下になる。
判別式がD = 4pq である2次形式
f(x, y) = x2 -pqy2
g(x, y) = -x2 +pqy2
の指標の値を見る。
f(1, 0) = 1 なので、χ1(f) = (1/p) = 1、χ2(f) = (1/q) = 1 となる。
g(1, 0) = -1 なので、χ1(g) = (-1/p) = -1、χ2(g) = (-1/q) = -1 となる(第1補充法則を使用)。
よってf(x, y)とg(x, y)は異なる種に属することが分かる。
種の個数は2個以下だったので、判別式がD = 4pqのどの形式h(x, y)についても、指標の値はf(x, y)と同じくχ1(h) = 1、χ2(h) = 1となるか、g(x, y)と同じくχ1(h) = -1、χ2(h) = -1となるかのどちらかになる。(どちらの場合でも χ1(h) = χ2(h) となることがポイント)。
ここで判別式D=4pqである
h(x, y) = px2 -qy2
を取ると、h(1,0)=p、h(0,1)=-q なので指標の値は、

  • χ1(h) = (-q/p) = (-1/p)(q/p) = -(q/p) (第1補充法則を使用)
  • χ2(h) = (p/q)

となる。
h(x, y)がどちらの種に含まれていても χ1(h) = χ2(h) なので、(p/q) = -(q/p) となる。

p≡1 (mod 4) または q≡1 (mod 4) のとき:
以下、p≡1 (mod 4) として証明する。(q≡1 (mod 4) の場合も、pとqの役割を入れ替えるだけで証明は同じ)。
(p/q)=1 ⇔ (q/p)=1 を証明する。
(p/q)=1 ⇒ (q/p)=1 の証明:
まず (p/q)=1 とすると、X2≡p (mod q) が解を持つことより、k2 = p + lq となるk、lが存在することが分かる。
そのk、lについてf(x, y) = qx2+2kxy+ly2 という2次形式を取ると、判別式はD = 4k2-4ql=4p となる。
D/4 = p ≡ 1 (mod 4)なので、判別式D=4pについて定義される指標はχ = (n/p)のひとつだけで、種の個数も21-1= 1個だけ。
判別式D=4pの2次形式 g(x, y)=x2-py2が1を表せる( g(1, 0)=1 )のでχ(g)=(1/p)=1 となり、種がひとつしかないので、f(x, y)についてもχ(f) = 1 となる。
またf(1, 0)=q なのでχ(f) = (q/p) となるので、(q/p) = 1 となる。
逆方向についても少し議論が追加される以外は、ほぼ同様。
(q/p)=1 ⇒ (p/q)=1 の証明:
(q/p)=1 とする。このときp≡1 (mod 4)なので(-q/p) = (-1/p)(q/p) = 1。(第1補充法則を使用)。つまりqと-qのどちらもpの平方剰余になる。
qと -qのうち ≡1 (mod 4)となる方をとり、それをεq とあらわすことにする。(εは1または-1)。あとの証明の流れは同じ。
X2≡εq (mod p) が解を持つので、k2 = εq + lpとなるk、lが存在し、そのk、lについてf(x, y) = px2+2kxy+ly2 という2次形式を取る。
判別式は、D = 4k2 - 4ql = 4εq で、D/4 = εq ≡ 1 (mod 4)。
この判別式に対して定義される指標は χ = (n/q)のひとつだけで、また種の個数も 1個だけ。
種の個数が1個だけであることからχ(f) = 1 が言え、f(1, 0) = p であることからχ(f) = (p/q) となり、合わせて (p/q) = 1 が言える。
これで (p/q)=1 ⇔ (q/p)=1 が証明された。
以上のようにして、種の性質の一部分から平方剰余の相互法則が証明された。

2次形式の合成

種の性質を証明するために、ガウスは2次形式の合成を定義する。

例えば、f(x, y) = x2 - Ny2 を取る。(判別式がD=4Nの場合は、これを含む類が群の単位元になる)。このとき

f(x, y)f(X, Y) = (x2 - Ny2)( X2 - NY2)
  = (xX-NyY)2 - N(xY-yX)2 = f(xX-Nxy, xY-yX)
となる。これは、fとfを合成してfが得られたと考えることができる。
しかし、2次形式の同値変換を考えると合成結果は無数に得られる。
例えば g(x, y) = (1-N)x2 +(4N-2)xy + (1-4N)y2とすると、g(x, y) = f(x-y, -x+2y)なので、
f(x, y)f(X, Y) = g(xX-xY+yX-NyY, -xX+2xY-2yX+NyY)
とも書ける。そこでガウスは、2次形式f(x,y)、g(x,y)、h(x,y)について
f(x, y)g(X, Y) = h(p1xX +p2xY +p3yX +p4yY, q1xX +q2xY +q3yX +q4yY)
と書けて、係数p1、p2、p3、p4、q1、q2、q3、q4が一定の条件を満たしているときに、fとgの合成がhであると定義する。
そしてfとgの合成が定義できると、それを使って類の合成を定義することができる。fとgの合成をf*gと書くことにして、形式fを含んでいる類を[f]と書くことにすれば、類[f]と類[g]の合成は
[f]*[g] = [f*g]
と定義することができる。
ただしガウスの形式の合成の性質を証明していく部分は、非常に計算が大変で難解であることで知られる。


ガウスのように非常に一般的な場合に対して形式の合成の性質を証明しなくても、類の合成さえ定義できればいいので、ディリクレは特別な場合だけを考える簡単化をおこなった。
またバルガヴァは1998年に2次形式の合成について新しい規則性を見つけ(Bhargava cube)、そこから発展させて得た高次合成則の業績が、2014年のフィールズ賞の受賞理由のひとつになっているみたい。

種の性質の証明

ガウスの計算自体は大変でも、今の視点から見れば、やっていることは次のようにまとめられる。

  1. 2次形式の合成、類の合成がうまく定義されていること(well-definedであること)、類が合成のもとで群になっていること、指標が演算について準同型になっていることχ(C*C')=χ(C)χ(C')、を証明する。(ただし群という言葉が使われるのはもっと後で1832年ガロア、群の公理が定義されるのは1870年クロネッカー)。
  2. 部分群の性質を調べて、種の個数がどうなるかを示す。

部分群の性質を調べるところは次のようになる。
判別式がDである原始2次形式の類全体を C(D) と表すことにする。C(D) = {C1、C2、…、Ch}。これが形式の合成から定義される演算によって群になるのは証明されたとする。
この類群C(D)について次のような部分集合が考えられ、それぞれC(D)の部分群になる。

  • 平方類群 C2(D) = {C2 | C ∈ C(D)}
  • アンビグ類群(両面類群) A = {C ∈ C(D) | C2 = e} (位数が2以下の元からなる集合)
  • 主種 G0 = {C ∈ C(D) | どの指標χiについてもχi(C) = 1 となる}

これらの部分群について次のことが言える。

  • 主種G0にもとづいて類群C(D)を同値類にまとめた C(D)/G0 と、指標の値によって類を種にまとめたものは一致する。(なぜなら類CaとCbがG0のもとで同値 ⇔ CaCb-1∈G0 ⇔ χi(CaCb-1)=1 ⇔ χi(Ca)=χi(Cb) ⇔ 指標の値が同じ ⇔ 種が同じ)。したがって、種の個数は、C(D)/G0の要素数と等しい。よって:
    • 種の個数 = #( C(D)/G0) = [C(D) : G0]
  • φ: C→C2 という写像準同型定理を使うと、アンビグ類群A と C(D)/C2(D) が同型と分かる。よって:
    • #A = #( C(D)/C2(D)) = [C(D) : C2(D)]
  • 平方類群の要素の指標の値は、必ず1になる。(χ(C2) = χ2(C) = 1なので)。したがって C2(D) ⊂ G0 となる。よって
    • [G0 : C2(D)] ≧ 1 となるので、
    • [C(D) : C2(D)] = [C(D) : G0][G0 : C2(D)] ≧ [G0 : C2(D)]

これらを合わせると、種の個数 = [C(D) : G0] ≦ [C(D) : C2(D)] = #A 、つまり

種の個数 ≦ #A (=アンビグ類群の要素数)
となる。そして、アンビグ類群の要素の標準形を考えて要素数を数えることで、アンビグ類群の要素数 = 2t-1が示され、
種の個数 ≦ 2t-1
が証明される。
さらに逆向きの不等式「種の個数 ≧ 2t-1」の証明が必要だけど、こちらの証明はもっと大変。ガウスは3元2次形式を使ってG0 ⊂ C2(D)を証明する。また、ディリクレはL関数を使った証明を与えている(1839年)。(のちの類体論の二つの不等式の証明につながっているようで、類体論の二つの不等式の片方は群構造を調べることで証明され、もう片方はL関数を用いて証明される。→追記: 類体論の証明との比較)。


次の二つが種の理論の中心の命題となる。

  • 種の個数 = 2t-1
  • 主種 (G0) = 平面類群 (C2(D))

2次形式がどの数を表せるかの判定

最後に、原始2元2次形式 f(x, y)に対して、どんな整数mが m = f(x, y)として表されるかを考える。
特にgcd(x, y) = 1 となるx、yで表せる場合が本質的なので、そのようなx、yでm = f(x, y)となっているとき原始的に表されているという。


まず、指標や種といった話と無関係(それに関わる結果を使わず)に、次の定理が成り立つ。

判別式がDの原始2次形式f(x, y)で、原始的に m = f(x, y) と表される。 ⇒ ∃X. X2 ≡ D (mod m) (Dはmの平方剰余である)
反対方向については、mがDと互いに素な奇数のとき次の定理が成り立つ。
∃X. X2 ≡ D (mod m) (Dはmの平方剰余である) ⇒ mは、判別式がDの原始2次形式のどれかで原始的に表される。
判別式がDの原始2次形式は無数にあるけれど、同じ類に含まれる形式は同じ数を表すことができるので、有限個の類のうちの少なくとも一つの類に含まれる形式ならどれによっても表せることになる。
これらの定理を使うと、Dと素な奇数(あるいは奇素数)のうちどんなmが判別式Dのf(x, y)で表されるか、についての条件は、次の二つから求まる。

  1. ∃X. X2 ≡ D (mod m) (Dはmの平方剰余) 、となる条件を求める。
  2. 上の条件を満たすmが、どの類(に含まれる形式)で表されるか、についての条件を求める。

このうち「どの類で表されるか」は難しい(類体論をはみだす)。でも指標の値を見れば「どの種で表されるか」は分かる。

平方剰余になるか

第一段階の「Dはmの平方剰余」

∃X. X2 ≡ D (mod m)
となる条件を考える。
mが奇素数の場合:
まずmが奇素数qの場合を考えると、これは、ヤコビ記号を使って、(D/q) = 1 と言い換えられる。つまり「Dはqの平方剰余かどうか」は、(D/q)の値で判定される。
判別式Dは D≡0 (mod 4)、またはD≡1 (mod 4)のどちらか。
D≡0 (mod 4) の場合:
Dを素因数分解して D = ±4・2k0・p1k1・p2k2・…・ plkl とすると、
(D/q) = (±1/p)(2/q)2(2/q)k0・(p1/q)k1・(p2/q)k2・…・ (pl/q)kl
このうち、(1/q)は常に1で(-1/q)はq mod 4で決まる。4はDの約数。
(2/q)はq mod 8で決まるけど、(2/q)の値が関係するのは、k0≧1のときでその場合、8はDの約数になる。

(pi/q)は、相互法則を使うと (pi/q) = (-1)(pi-1)/2・(q-1)/2(q/pi) となり、この値は q mod 4piで決まる。( (q/pi)の部分がmod pで決まり、-1のベキ乗の部分がmod 4で決まる)。そして 4piは、Dの約数。
(2/q)、(p1/q)、…、(pl/q)のそれぞれがDの約数によるq mod で値が決まるので、(D/q)の値はq mod |D|で決まる。よって「Dはqの平方剰余かどうか」は、奇素数qを|D|で割った余りを見れば判定できる。

D≡1 (mod 4) の場合:
Dが奇数なので第1補充法則と相互法則により、
(D/q) = (q/|D|)
となる。(q/|D|)の値は q mod |D|で決まる。よって「Dはqの平方剰余かどうか」は、奇素数qを|D|で割った余りで決まる。
以上のようにD≡0 (mod 4)、D≡1 (mod 4)いずれの場合も「Dはqの平方剰余かどうか」は、奇素数qを|D|で割った余りによって判定できることが分かった。
mが(素数とは限らない)奇数の場合:
mを素因数分解して、m = q1k1・q2k2・…・ qlklとなったとすると、中国の剰余定理により
X2 ≡ D (mod m) が解を持つ ⇔ mのどの素因数 qikiについても、X2 ≡ D (mod qiki) が解を持つ
が言える。
さらに奇素数qiについては、
X2 ≡ D (mod qik) が解を持つ ⇔ X2 ≡ D (mod qi)
が成り立つので、
X2 ≡ D (mod m) が解を持つ ⇔ mを割るどの素数 qiについても、X2 ≡ D (mod qi) が解を持つ
と言い換えられる。そしてこの右辺は各奇素数qiについて、奇素数qiを|D|で割った余りによって判定できる。

どの種で表されるか

ここまでの話で、X2 ≡ D (mod m) が解を持つかどうか(Dがmの平方剰余かどうか)は、mの各素因数を|D|で割った余りを見て判定できることが分かった。そして解を持つmについては、判別式がDである2次形式のうちのどれかによって表すことができるのだった。
次は、それらのmに対して指標の値を計算する。つまり

  • 判別式Dの約数である奇素数p1、p2、…に対して、(m/p1)、(m/p1)、…の値
  • Dを2ベキで割ったときの剰余に応じて、α(m)、β(m)、α(m)β(m)のうちの0〜2個

の値を求める。そして、指標の値がこれらの値とちょうど一致している種を選ぶ。
指標の値の定義を仕方を考えると、選んだ種に含まれる2次形式のどれかによってmを表せることが分かる。さらに、種がひとつの類しか含んでいない場合は、その類に含まれるどの2次形式によってもmが表せることが確定する。
ここで、(m/p)の値はm mod pで決まり、α(m)の値はm mod 4で決まり、β(m)の値はm mod 8で決まるので、m mod |D|の値で指標全体の値が定まる。つまり、どの種を選ぶかは|D|で割ったときの余りによって決まる。
よって、X2 ≡ D (mod m) が解を持つかの判定と、どの種によって表されるかの判定までは、|D|で割った余りを見るだけで決まってしまうことが分かった。
そして、

  • 種がひとつの類だけを含んでいる場合は、m = f(x, y)の形で表せるかどうかは |D|で割った余りによって完全に決まってしまう。
  • 種が複数の類を含んでいる場合は、m = f(x, y)の形で表せるかどうかは |D|で割った余りだけでは完全には判定できない。

例1: x2 + 21y2
素数についてだけ考える。
x2 + 21y2 で、どの奇素数を表すことができるか。
まず判別式を見ると、D = 02 - 4*1*21 = -84。
判別式が-84の原始2次形式を同値類に分けると4つに分かれ、指標は(n/3)、(n/7)、α(n) = (-1)(n-1)/2で決まる。

類 (類の代表元)(n/3)(n/7)(-1)(n-1)/2
x2 + 21y2111
3x2 + 7y21-1-1
2x2 + 2xy + 11y2-11-1
5x2 + 4xy + 5y2-1-11

次に X2 ≡ D (mod q) がどの奇素数qについて解を持つかを調べる。

(D/q) = (-84/q) = (-1/q)(21/q) = (-1)(q-1)/2(q/21)
なので、解を持つかはqを84で割った余りで決まる。84と素な数のうち、解を持つのは余りが、1、5、11、17、19、23、25、31、37、41、55、71の時で、持たないのは余りが、13、29、43、47、53、59、61、65、67、73、79、83の時。
解を持つ場合の余りについて指標の値を求めると、素数をどの種の2次形式で表すことができるか分かる。例えば5は、(5/3)=-1、(5/7)=-1、(-1)(5-1)/2=1なので、84で割って5余る奇素数は 5x2 + 4xy + 5y2(と同値な形式)で表すことができる。5 = 5・12 + 4・1・0 + 5・02、89 = 5・22 + 4・2・3 + 5・32、…。
各余りについて計算すると、次のようになる。
類 (類の代表元)mod 84
x2 + 21y21、25、37
3x2 + 7y219、37、55
2x2 + 2xy + 11y211、23、71
5x2 + 4xy + 5y25、17、41
この表より、x2 + 21y2は、84で割って1、25、37余る奇素数を表せることが分かる。
37 = 42+21・12、109 = 52+21・42、189 = 22+21・32、…。


例2: x2 + 26y2
同じく素数についてだけ考える。
x2 + 26y2 で、どの奇素数を表すことができるか。
判別式の値はD = -104で、原始2次形式は6個の類に分かれ、指標は(n/13) と α(n)β(n) = (-1)(n-1)/2+(n2-1)/8の二つ。
種にまとめてみると、一つの種に三つの類が含まれているので、どの奇素数を表せるかは余りを見ただけでは完全には決まらない。
類 (類の代表元)(n/13)(-1)(n-1)/2+(n2-1)/8
x2 + 2xy + 21y211
3x2 + 2xy + 9y211
3x2 - 2xy + 9y211
2x2 + 13y2-1-1
5x2 + 4xy + 6y2-1-1
5x2 - 4xy + 6y2-1-1
X2 ≡ D (mod q) がどの奇素数qについて解を持つかを調べる。
(D/q) = (-104/q) = (-1/q)(2/q)3(13/q) = (-1)(q-1)/2+(q2-1)/8(q/13)
なので、解を持つかはqを104で割った余りで決まる。104と素なもののうち

  • 解を持つ … 1、3、5、7、9、15、17、21、25、27、31、35、37、43、45、47、49、51、63、71、75、81、85、93
  • 解を持たない … 11、19、23、29、33、41、53、55、57、59、61、67、69、73、77、79、83、87、89、95、97、99、101、103

となっている。
さらに解を持つ余りを指標で分類すると次のようになる。

類 (類の代表元)104で割った余り
x2 + 26y2
3x2 + 2xy + 9y2、3x2 - 2xy + 9y2
1、3、9、17、25、27、35、43、49、51、75、81
2x2 + 13y2
5x2 + 4xy + 6y2、5x2 - 4xy + 6y2
5、7、15、21、31、37、45、47、63、71、85、93
一つの種に複数の類が含まれているので、余りを見ただけではどの類の形式で表せるかが分からない。実際に5000までの素数についてどちらで表されるか調べると次のようになっていて、余りでは判断できない。(たとえもっと大きな数で割っても分類することはできない)。

1 3 9 17 25 27
x2+26y2 937、2398、3329 107、523、1459、2083、3331、4787 113、1777、2609、4273 641、1889、2617、4073 857、3041、3769 859、2003、2731、3251
3x2+2xy+9y2、3x2-2xy+9y2 313、1249、2081、4057、4889、4993 3、211、1667、1979、3019、3643、3851 1153、2089、4481 953、3449、4801 2417、2729、2833 131、443、1483
35 43 49 51 75 81
x2+26y2 659、1283、3259、4507 251、1499、3371、4723 1193、1297、2129、2441、2753、3793 467、1091、2131、3067、4523 283、2467、3299 2161、4657、4969
3x2+2xy+9y2、3x2-2xy+9y2 347、971、2011、2531 43、1187、1291、2539、2851、4099 257、881、1609、2857、4937 2339、4003 4027、4339、4547、 4651 809、1433、2473、3617、3929

参考文献

追記: 類体論の証明との比較

ガウスの種の理論では、
種の個数 ≦ 2t-1
を次のようにして示した。
種の個数は、2次形式の類群C(D)と主種G0を使って
種の個数 = [C(D) : G0]
と表される。一方、C(D)からC2(D) への写像
φ : C(D) ∋ c → c2 ∈ C2(D)
の核をアンビグ類群Aと呼ぶと、C2(D) ⊂ G0 なので
#A = [C(D) : C2] ≧ [C(D) : G0] = 種の個数
となり、「アンビグ類群の要素数 ≧ 種の個数」が分かった。そして、アンビグ類群の要素数を評価して、目的の不等式を得る。


類体論で、これに対応する部分は次のようになる。(高木貞治『代数的整数論』13.1節。ただしその本では集合に名前をつけずに、アルファベットの大小とフォントの違いで要素を区別する略記を使っているので、ここでは文字を変えたり集合に適当に名前を付けたりして式をかなり書き換えている)。
証明したいのは、巡回拡大(環状体)L/Kに対する

[IK(m) : HL/K(m)] ≧ [L : K]
という不等式。式の意味は特に気にする必要は無い。( IK(m) は、Kのイデアルでmと素なもの。HL/K(m) の説明は略)。
左辺の[IK(m) : HL/K(m)] を
[IK(m) : HL/K(m)] = [IK(m) : PKν(m)] / [HL/K(m) : PKν(m)]
と変形する。(PKν(m)は、Kの要素のうちmod mのノルム剰余になる数、から生成されるKの単項イデアル全体。[高木]では (ν) と表記される集合)。
この変形した式の分母[HL/K(m) : PKν(m)]の値が、「種の個数」とちょうど等しくなる。
ノルムNL/Kを使って、Lのイデアル類群Cl(L)から、HL/K(m)/PKν(m)への関数を定義して、その核を主種G0([高木]ではC0)と定義する。Cl(L)を主種G0によって同値類に分けると、それぞれの種が得られる。
関数NL/K : Cl(L) → HL/K(m)/PKν(m)が全射なので、準同型定理により
[HL/K(m) : PKν(m)] = [Cl(L) : G0] (種の個数)
が言える。ただし種の個数には「着手困難である」。
そこで写像
φ : Cl(L) ∋ c → c1-s ∈ Cl(L)1-s
を考えて、この核をアンビグ類(特異類)A(L)と呼ぶことにする。
すると Cl(L)1-s ⊂ G0 なので [G0 : Cl(L)1-s] ≧ 1であり、よって
#A(L) (アンビグ類の要素数) = [Cl(L) : Cl(L)1-s] = [Cl(L) : G0][G0 : Cl(L)1-s] ≧ [Cl(L) : G0] (種の個数)
となり、2次形式の場合と同じように「アンビグ類の要素数 ≧ 種の個数」となった。これにより、
[IK(m) : HL/K(m)] ≧ [IK(m) : PKν(m)] / #A(L)
となるので、この分子分母を評価して、
[IK(m) : PKν(m)] / #A(L) ≧ [L : K]
を示せば、目的の不等式が証明される。(それを[高木]13.2節〜13.5節で10ページ以上かけておこなっている)。