ガロア理論についてのメモ

(2011-07-21:「5次以上の方程式が代数的に解けないことについて」に多少関係する内容)
ガロア理論を理解しようとすると、ガロア理論そのものよりもガロア理論の前提になる部分の理解が大変だったりする。群・体・同型写像多項式などについて(ガロア理論の証明には必要のないことも含めて)たくさん説明があって、そのあとようやくガロア理論の説明と証明が来る。

でもミニマムな部分だけを理解したり証明したりするだけなら、もう少し簡単になるはず。

最小限の部分

例えばこれぐらいの内容。

  1. 体の拡大があると、「中間体に対して自己同型群を与える写像」と「自己同型群に対して中間体を与える写像」を考えることができる。これらの写像は互いに逆写像ではないけど、それに近い性質がある。
  2. 拡大がガロア拡大なら、二つの写像は互いに逆写像になる。したがってこれらの写像によって、中間体と自己同型群が1対1に対応している(ガロア理論の基本定理)。

方程式が解けるかという話をするにはさらに色々説明がいるけど、それは全部後回しにする。
1を説明するために必要な概念は、体の拡大、体の自己同型写像、自己同型群ぐらい。1の内容もそれほど難しくはないはず(証明することがほとんどない)。でもいくつか例(1対1に対応するもの、しないもの)を挙げないと、イメージがわかないかもしれない。
そして本題は2。
1での中間体全体から部分群全体への写像 \phi(x)={\rm Aut}(L/x)、部分群全体から中間体全体への写像 \psi(x)=L\hat{}xとすると、これらの写像で行って戻ってくると元より大きくなる(この性質は1で説明される)。

  •  M \mapsto \phi(M) \mapsto \psi(\phi(M)) \supseteq M
  •  H \mapsto \psi(H) \mapsto \phi(\psi(H)) \supseteq H

ガロア拡大の場合、これがちょうど元に戻って \psi(\phi(M)) = M,\quad  \phi(\psi(H)) = Hになる(後者の等号はガロア拡大でなくても成り立つのか?)。これを証明するには、拡大次数や群の位数を調べてそれが一致する(=増加していないから等号が成立する)ことを示すというのが普通の仕方(数えずに直接示す証明があるのかは知らないけど)。
それで証明に先立って「ガロア拡大」を説明しないといけないのだけど、互いに同値な定義がいくつかある。
体Kの拡大L/Kがガロア拡大であることの定義をいくつか並べてみる(説明略)。

  •  L\hat{}{{\rm Aut}(L/K)} = K
  • Lのある自己同型群Gについて、 L\hat{}G = K
  •  |{\rm Aut}(L/K)| = [L/K]
  •  L/Kは正規拡大かつ分離拡大
  • Kを係数とする分離多項式f(x)があり、Lはf(x)の最小分解体になる

上三つの定義では方程式(多項式)が表向き出てこない。その方が方程式の話が省略できて理解の負荷が減る気がするので、それらのどれかを定義に採用する(逆に方程式に密着した方が抽象性が減り理解が容易になるだろうという考え方もある。そのあたりは好みや適性があるのかも。個人的には多項式の規約性とかの話になるとピンとこなくなる)。
基本定理の証明も、単純拡大性を使うものではなく、方程式が表に出てこない線形代数的なやり方で行う。そうすると二つの補題が本質的な役割を果たす。

補題1は自己同型群の位数が有限で抑えられることを示していて、補題2は逆に拡大次数の大きさが群の位数で抑えられることを示している。またこれらの補題は、ガロア拡大の定義の同値性の証明に必要だったり3番目の定義の説明になっていたりする。どちらの補題の証明でも必要なのは線形代数の知識と自己同型の性質ぐらいで、証明を追うこと自体はそれほど難しくない。
この二つの補題があれば、あとは群の多少の知識で基本定理が証明できる。

問題点

このやり方だと具体例が出しにくいという問題がある。方程式を使った具体例なしでいきなり体の拡大の話をしても、さっぱりイメージがわかないような気はする。かといって、多項式に関する色々をちゃんと説明しだすと、ガロア理論の本題に到達する前に挫折するとか到達した頃にはそれまでの部分を忘れているみたいなことになってしまう。正確な説明は端折っているけど理解に役立つような例を早い段階で出すみたいなやり方が良いのかなと思うのだけど、そういうことをすると下手をするとただ判りにくくさを増やすだけになったりするし。
数学者向けでない多少いいかげんな、だけど啓蒙書ほどには省略していない(ひと通りの証明はされている)レベルの本があると良いのだけど。