方程式からガロア理論

方程式の解法の話からガロア理論にたどり着くまでの要点のようなもの。

ガロア以前

ガロアが論文を書くより以前にラグランジュガウス、ルフィニ、アーベルらの研究により、次のような結果が得られていた。

  • 2次3次4次の方程式について: 提案されてきた方程式の解法はどれも解の置換の性質と密接に関係している。(ラグランジュ)
  • 5次以上の方程式について: 解の置換の性質を調べることにより、5次以上の方程式が一般的にはべき根で解けないことが証明される。(ルフィニ、アーベル)
  • 円周等分方程式などについて: 解の置換の性質を調べることにより、5次以上でもいくつかのタイプの方程式がべき根で解けることが証明される。(ガウス、アーベル)

ここからさらに進んで、任意の方程式についての解の置換(=ガロア群)の性質を考察したのがガロアだった、という流れになる。

  1. 対称性(シンメトリー)
  2. 方程式の対称性: 2次方程式の場合
  3. 3次、4次方程式の場合
  4. 5次以上の方程式の非可解性(ルフィニ、アーベル)
  5. 円周等分方程式(ガウス)
  6. 間奏: アーベルの方程式論について
  7. 解の置換(ガロア群)
  8. 原始元の最小多項式と基本定理の証明
  9. 方程式の可解性
  10. 追記: 方程式の可解性の概要

1. 対称性(シンメトリー)

対称性とは

ある要素aに対して操作fを行ったときに変化が起こらない場合、つまりf(a)=aとなる場合、「aはfについて対称である」とか「fについて対称性を持っている」と言う。また操作と対称性を同一視して「対称性fを持っている」とも言う。

(正確には「操作は可逆なものに限る」という但し書きがいる)

例えば、正三角形は「頂点を通る垂線による折り返し」や「120度の回転」といった操作で変化しないので、正三角形はこれらの操作について対称である。

対称性と群の関係
  • 操作fと操作gの両方について対称とすると、「fとgを続けておこなう」という操作についても対称である(→積演算について閉じている)。
  • 操作fで対称なら、それをもとに戻す操作f -1についても対称である(→逆元の存在)。
  • 「fとf -1を続けておこなう」ことは操作の一つでありそれは「何もしない」のと同じことなので、「何もしない」ことも操作に含まれる。そして「何もしない」という操作eについては必ず対称になる(→単位元の存在)。

これらのことから、ある要素の持っている対称性全体は群をなすことが判る。

2. 方程式の対称性: 2次方程式の場合

(以下、方程式の一番次数の高い係数aはつねにa=1とする)
x2+bx+c = 0の解をαとβとすると、係数b、cは解α、βから決まるので、b=b(α,β)、c=c(α,β)と書ける。そして解と係数の関係から

b(α,β) = -(α + β)
c(α,β) = αβ

である。
これを見ると、解αとβを入れ換えても、係数b、cは変化しないことが判る。つまり2次方程式の係数b、cは、「2つの解を入れ換える」という操作について対称ということになる。
例えば2つの解α、βがα=π、β=eの2次方程式はx2-(π+e)x+πe = 0。2つの解を入れ換えてα=e、β=πとしても、方程式はx2-(π+e)x+πe = 0となって、方程式の係数は変化しない。


方程式の係数は、解の入れ換えについて対称性を持っている。
一方、解α=π、β=e自身は解の入れ換えで変化するので、この操作について対称ではない(「解を入れ換えない」という操作(恒等置換)については対称)。

四則演算と対称性

数s、tが解の入れ換えについて対称(変化しない)とすると、s+t、s-t、s×t、s/tも同じ入れ換えについて対称になっている(変化しない)。つまり

  • 解の入れ換えについての対称性は、四則演算をおこなっても崩れない(崩せない)。
  • ある対称性を持っている数の全体は四則演算について閉じている(体をなす)。

このことと上に出てきた対称性の性質から、

  • 数の集まりがあれば、それらの数全てが共通に持っている対称性の集まり(群)が考えられる。
  • 対称性(操作)の集まりがあれば、その全てについて対称であるような数の集まり(体)が考えられる。

ことが判り、この時点でガロア理論の中心事項である


「ある対称性を持っている数(=体)」⇔「ある数が持っている対称性(=群)」
の関係がうっすらと現れている。

方程式の解法と対称性
  • 2次方程式の係数b、cは、解の入れ換えについて対称である(変化しない)。
  • 解α、βは解の入れ換えについて対称ではない(変化する)。
  • 四則演算は対称性を崩さない。

ということから、2次方程式を解く( bとcを使ってαとβを作る)には四則演算以外のものが必要なことが判る。
例えばx2-(π+e)x+πe=0の場合、

  1. 係数b= -(π+e) = -(α+β)、c = πe = αβは、解α=πとβ=eを入れ換えても値は変化しない。
  2. 係数b= -(π+e)、c = πeについて四則演算をどれだけ行っても、πとeの入れ換えで変化しない値しか作ることができない。
  3. 解自身π、eは、解の入れ換えで変化する値なので、係数b= -(π+e)、c = πeから四則演算だけを使って作ることはできない。

となる。
そこで解の公式\frac{-b\pm \sqrt{b^2-4c}}{2}でルートがかかった部分に注目する。解と係数の関係を使って計算すると
b2-4c = (α-β)2

となる。このb2-4cは係数b、cから四則演算で作られているので、解の入れ換えで変化しない(=解の入れ換えに対して対称)。その一方、ルートをとった後にできる
 \pm \sqrt{b^2-4c} = \pm(\alpha-\beta)
は、解の入れ換えで
α-β → β-α = -(α-β)
と変化する(=解の入れ換えに対して対称ではない)。

ルートを使って対称性を崩した結果、方程式の解を得ることができる。
x2-(π+e)x+πe=0の場合、b2-4ac = (π+e)2-4πe = (π-e)2は、πとeを入れ換えても値が変わらないけれど、それのルートを取った ±(π-e)はπとeの入れ換えで値が変化する(符号が変わる)。この ±(π-e)と係数 b= -(π+e)から四則演算で解π、eが得られる。

  1. 2次方程式の係数は、解の入れ換えに対して対称性を持っている。
  2. 2次方程式の解は、解の入れ換えに対して対称性を持っていない。
  3. 四則演算は対称性を崩さないが、ルート√を使って対称性を崩すことができる。
  4. ルート√を使うことで、対称性の高い係数から対称性の低い解を作ることができる。

さらにまとめると次のようになる。


2次方程式を解くとき、ルートを取ることで対称性を崩している。

3. 3次、4次方程式の場合

3次と4次の方程式の場合についても


方程式を解くとき、べき乗根を取ることで対称性を崩している。
ということさえ理解できれば、3次4次の具体的な解法は別に知らなくても構わないのだけど一応うわべだけ説明。
x3+bx2+cx+d = 0の解をα、β、γとすると、b= -(α+β+γ)、c= αβ + βγ + γα、d= -αβγなので、係数b、c、dは解α、β、γについてのどんな置換についても対称である。
3次方程式の解法で、べき乗根を使う部分を抜き出して解と係数の関係を使って書き直すと次のようになっている。
第1段階

べき乗根をとる前 べき乗根をとった後
(α-β)2(β-γ)2(γ-α)2
任意の置換で不変
(α-β)(β-γ)(γ-α)
偶置換だけで不変

第2段階 (※ ωは1の3乗根)

べき乗根をとる前 べき乗根をとった後
(α+ωβ+ω2γ)3
偶置換で不変
α+ωβ+ω2γ
恒等置換だけで不変

このように、べき乗根を使うことによって段階的に数の対称性を崩している。
4次方程式の場合でも「平方根を取る→立方根を取る→平方根を取る→平方根を取る」という手順で対称性を崩している。

段階 べき乗根をとる前 べき乗根をとった後
1 (α-β)2(α-γ)2(α-δ)2(β- γ)2(β-δ)2(γ-δ)2
全ての置換で不変
偶置換で不変
2 ((αβ+γδ) + (αγ+βδ)ω + (αδ+βγ)ω2)3
偶置換で不変
e、(αβ)(γδ)、(αγ)(βδ)、(αδ)(βγ) で不変
3-a (α+β-γ-δ)2
e、(αβ)(γδ)、(αγ)(βδ)、(αδ)(βγ) で不変
e、(αβ)(γδ) で不変
3-b (α-β+γ-δ)2
e、(αβ)(γδ)、(αγ)(βδ)、(αδ)(βγ) で不変で不変
e、(αγ)(βδ) で不変
3-a + 3-b e(恒等置換)で不変

ここまでがだいたいラグランジュの論文(1770年、1771年)で考察されたこと(の一部分の読みかえ)。
ラグランジュは対称性を崩していくという考え方ではなく、置換による変化が少ない数(置換で生じる値の少ない数)から変化がより多い数を段階的に作っていくというを考え方をしている。対称性(=値を変えない置換)が少ないほど置換で生じる値は増えるので、実質的には対称性を下げるのと同じことを考えている。

4. 5次以上の方程式の非可解性(ルフィニ、アーベル)

2,3,4次方程式の解法のポイントは


方程式を解くとき、べき乗根を取ることで対称性を崩している。
ということだった。
一方、5次以上の方程式が一般的には代数的に解けない理由を一言で言うと、

5次以上の方程式は、べき乗根を取ることでは崩せない対称性を持っている。
となる(これは5次以上の方程式が強い対称性を持っているというよりも、べき乗根の対称性を崩す力はそれほど強くないということだと思う)。
前に書いた「5次以上の方程式が代数的に解けないことについて」では対称性を下げていく過程を段階的に追っていき非可解性を示したけど、証明の要点となっているのは次のこと。

ap = Aの関係があり、Aが3次循環置換(x1 x2 x3)と5次循環置換(x1 x2 x3 x4 x5)の両方で不変ならば、aもこれらの置換で不変である。

(そうなる理由は以下のとおり。
置換のxの部分は略して置換s=(1 2 3)、置換t=(1 2 3 4 5)と書くことにする。
ap = A = s(A) = s(ap) = (s(a))p

なので、ωsp = 1となる定数ωsを使って s(a) = ωsa と書ける。s3は恒等置換なのでa = s(s(s(a))) = ωs3aとなる。よって ωs3 = 1。

同様の考察から t(a) = ωta と書け、ωt5 = 1 となる。

置換u = s・t = (1 3 4 5 2) と置換 v = s-1・t = (3 4 5) を考えると、置換u5と置換v3がそれぞれ恒等置換になるので、
a = u5(a) = ωs5ωt5 = ωs2a
a = v3(a) = ωs-3ωt3a = ωt3a
となる。よって、ωs2 = 1、ωt3 = 1となる。
ωs3 = 1、ωt5 = 1 でもあったので、ωs = 1、ωt = 1 となる。
よって、s(a) = a、t(a) = a となるので、aは置換s、置換tのどちらでも不変になる)

このことから、方程式が5次以上の場合はべき乗根A \rightarrow {}^p\sqrt{A} =aをとることでは崩せない対称性があることが導かれる。そのため、四則演算とべき乗根では解の公式を作ることができない。
このことはおおまかにはルフィニが証明した(1799年、最終改訂版1813年)。しかしルフィニの議論だけでは方程式の解の公式がないことを完全には示せておらず、アーベルが完全な証明をおこなった(1824年)。

5. 円周等分方程式(ガウス)

5次以上の方程式は一般にはべき根では解くことができない。しかしガウスはxn-1 = 0(円周等分方程式と呼ばれる)はべき根によって解けることを示した(またガウス代数学の基本定理を証明した学位論文(1799年)の中で5次以上の方程式は一般にはべき根で解けないだろうと表明している)。
ガウスの理論のポイントとなっているのも、やはり解の置換。
円周等分方程式について、

  • 可能な解の置換が一般の方程式よりも少なくて、しかもよい性質を持っている。
  • 置換について成り立っている性質を利用して解を求めることができる。

ということさえ納得すれば、以下の詳細は別に理解しなくてもよい。

円周等分方程式の性質

円周等分方程式の解はx_1=e^{\frac{2\pi i}{n}},x_2=x_1^2,x_3=x_1^3,\ldots,x_{n-1}=x_1^{n-1}なので、解x1がどのxkに置き換わるかが決まると他のx2、x3、…、xn-1の置き換え方も自動的に決まってしまう。そのため解の置換の総数が一般の方程式よりもずっと少ない。そして単に少ないだけでなくきれいな性質を持っている。
x7-1 = 0を例に取る。
x7-1 = (x-1)(x6+x6+x5+x4+x3+x2+x+1)
なので、x6+x6+x5+x4+x3+x2+x+1の解を求めればいい。
x_1=e^{\frac{2\pi i}{7}}と置けば、全ての解は
(x1, x2, x3, x4, x5, x6) = (x1, x12, x13, x14, x15, x16)
のように書くことができる。
解の置換を考えるときは、x1 がどの xk = x1kに置き換わるを決めれば、他の解xl = x1lの移動先は (x1k)l = xlk と自動的に決まってしまう。

またf(x) = x3と置くと、
(x1, x2, x3, x4, x5, x6) = (x1, f2(x1), f(x1), f4(x1), f5(x1), f3(x1))
と書ける。

解の置換はx1がどのxkに置き換えられるかで決まった。そしてx1をxkに移す置換は いずれかの fl(x) によって起こすことができる。よって全ての可能な置換はf、f2、f3、…のように、fを繰り返し適用することが得られる(これと同様のことはn=7の場合に限らず任意の素数で成立する。原始根の存在に基づく)。

ここで1の6乗根をωと置いて
t = x1 + ωf(x1) + ω2f2(x1) + ω3f3(x1) + ω4f4(x1) + ω5f5(x1)

という項を作る(これはラグランジュ・リゾルベント(分解式)と呼ばれるもの)。
するとt6は解の任意の置換で変化しない(そして値を求めることができる)。一方tはt6よりも対称性が低くなっていて、tに繰り返しfを適用したものを並べると連立方程式が立てられてx1、x2、…、x6を求めることができる。
あとは1の6乗根が計算できれば解の値が定まるのだけど、上と類似の操作を再帰的に実行することで全てをべき乗根で書くことができる。

代数方程式の解法の歴史を語るとき、アーベルとガロアに及ぼされたラグランジュの影響ということへの言及が必ずなされますが、アーベルとガロアの理論が成立するためには、ガウスの存在を忘れることはできません。実際のところ、ガウスの円周等分方程式論がなかったなら、アーベルの定理ガロアの理論も決してありえなかったろうと思います。
(高瀬正仁『ガウスの数論』p.74)

6. 間奏: アーベルの方程式論について

歴史的な流れでいうとガロアの少し前にアーベルによる研究がある。ただし、

  • ガロアへの直接的な影響がどれくらいあったのかがよく判らない(ガロアが最初の方程式論の論文を書いた時点でアーベルの研究を知らなかったのかどうか等)。
  • アーベルの仕事まで説明し出すと、ガロア理論にたどり着く前に脱落する可能性が増える。ガロア理論の理解が目標だとすると、これは本末転倒。

アーベルの方程式論のことは省略する。
アーベルの扱った問題はガロア理論の前座みたいな役割で取り上げるよりも、ガロア理論、楕円関数論、数論の交差する問題(「クロネッカーの青春の夢」に至る問題)として扱った方がよいかもしれない。目次から判断すると、デイヴィッド・A・コックス『ガロワ理論』の第15章「レムニスケート」が多分そのような内容。ただしそれらが交差するというのはアーベルというよりもガウスの視点で、アーベルは数論的な面の研究はしていないみたい。ガウスの円周等分方程式論は『数論研究』(1801年)の第7章に置かれその冒頭で楕円関数論の存在がほのめかされている。

ついに、死が彼[アーベル]を打ち倒す。その1829年当時、巾根で解ける方程式全体を特徴づける一般的問題にいどんで、彼はクレレやルジャンドルに諸結果を知らせているが、それはすでにガロアのものとごく近い。
このガロアをまって、3年後に、方程式論の大建築物が仕上げられた。
(ニコラ・ブルバキ『数学史』上p.194「多項式と可換体」)

7. 解の置換(ガロア群)

「5次方程式に解の公式がないこと」と「円周等分方程式がべき根で解けること」の証明はどちらも、方程式がどんな解の置換を持っているかということが重要だった。
そこでより一般的にどんな方程式にも通用する形で解の置換を定義したい。歴史的には次の2つのやり方がある。

このうちデデキントのものの方が簡潔だしたぶん判りやすい。ただし「方程式が解けるかどうか」という視点から見ると、解が判らない状態でどうやってその写像を求めていいのかサッパリ判らないところが気持ち悪いかもしれない。定義を見ただけでは求め方が全然判らないというのはガロアのやり方でも同じかもしれないけど、それでもガロアの方が具体的な計算との距離は近い。
置換を同型写像として定義しても、単拡大性を利用して基本定理を証明する場合は実質的にガロアの定義を経由しているようなものだから、どっちでやっても結局は説明の仕方次第かもしれないけれど。

ガロアによる解の置換の扱い

まずアーベルの扱った場合を少しだけ述べる。
アーベルは円周等分方程式やレムニスートの等分方程式の研究から、方程式の解x1、x2、…、xnのどれもがどれか一つの解x1の有理式として書ける場合を考察した。つまり有理式 ψ2(x)、ψ3(x)、…、ψn(x) があって、
(x1, x2, x3, …, xn) = (x1, ψ2(x1), ψ3(x1), …, ψn(x1) )

と書ける場合を扱った。
このような場合はx1をどのxkに移すかを決めると他の解の移る先も決まり置換が確定する(このとき移った先の値も全てもとの方程式の解になっている)。
(x1, ψ2(x1), ψ3(x1), …, ψn(x1) ) → (xk, ψ2(xk), ψ3(xk), …, ψn(xk) )

しかしどの解もある一つ解の有理式で書けるという条件は一般には成り立たない。
ガロアは、解x1ではなく、うまく値 v を取って、
(x1, x2, …, xn) = (ψ1(v), ψ1(v), …, ψn(v) )

とすることを考えた(起源はラグランジュにあるらしい)。このようなvは必ず取ることができる(体の言葉でいうと単拡大性)。一般的な用語かは判らないけどvは原始元と呼ばれる。
vを解に持つ最小多項式(次数が最小となる多項式)をg(x)として、g(x) = 0の全ての解をv1(=v), v2, v3, …, vmとする。このときvを vkに置き換えると、それに伴って解x1, x2, …,xnの置換が決まる。
ガロアはこのvの置き換えから生じるで起こるx1, x2, …,xnの置換を方程式の解の置換とした(なおガロアは正規拡大の場合の置換だけを考えている)。 
(デデキントの定義から始めた場合でも、単拡大性を経由してここでの原始元と最小多項式の性質が出てくる)

8. 原始元の最小多項式と基本定理の証明

解の置換の説明に出てきた原始元の最小多項式g(x)は、ガロア理論の基本定理の証明でも本質的な役割を果たす。まず一般的に次の性質が成り立つ。

  • 体について: 体の拡大次数 = g(x)の次数
  • 群について: 解の置換の総数(群の位数) ≦ g(x)の次数 (なぜなら解の置換はg(x)の解の選び方で決まり、g(x)の解の総数はg(x)の次数以下なので)。

さらに、もしも次の2つの性質

  1. g(x)は重解を持たない。
  2. vをどの解vkに置換することも可能である(別に言い方をすると、全てのvkがvの有理式で書ける。体の言葉でいうと、どのvkももとの体に入っている)。ガロアの定義ではこれが成り立っている場合だけを扱っている。

が成り立っている場合は

  • 群について: 解の置換の総数(群の位数) = g(x)の次数

となる。
おおざっぱに言えば、1が成り立つのを分離拡大、2が成り立つのを正規拡大、1+2をガロア拡大と呼ぶ。なのでガロア拡大の場合は、

  • 体の拡大次数 = 群の位数

が成り立つ。
ガロア理論の基本定理は一言で言えば

ガロア拡大では、体(拡大体の中間体)と群(ガロア群の部分群)が1対1に対応する

というもので、それはこの「ガロア拡大では、体の拡大次数=群の位数」を使って証明される。ちゃんと証明するにはいろいろ細かな補足が必要になるけど。

(基本定理における体と群の対応というのは、もう少し詳しくは

  • 体 → 体のどの元(数)も動かさない置換の集まり(群)
  • 群 → 群のどの元(置換)でも動かない数の集まり(体)

がちょうど逆の関係になるというもの。
またアルティン線形代数的な証明では、拡大次数と写像の個数の関係を、単拡大性や多項式の話を使わずに導く)

9. 方程式の可解性

ガロア理論の基本定理が証明されると、

  • べき乗根の添付と四則演算でどんな数が書けるか(=べき乗根を使ってどんな体の拡大が可能か)

という問題が

  • どんな部分群が存在するか

ということに帰着するので、あとは群の性質を考察することで方程式の可解性の条件が判ることになる。
ただし実際にそれをやるのはけっこう面倒だし、そこまでたどり着く頃にはたぶんへろへろになっている。

追記: 方程式の可解性の概要

以下、方程式の可解性についての概要を追加して書いておく。

方程式f(x) = xn+c1xn-1+…+cn-1x+cn = 0 を解きたいとする。あらかじめ可能な限り因数分解してf(x)は既約になっているとする(本当は既約じゃなくてもかまわないのだけど、話を簡単にするため)。

  • f(x) = 0の解を α1, …, αnとおく。
  • 方程式の係数c1, …, cnから四則演算で書ける数全体をKとおく。
  • 方程式のガロア群をGとおく。Kに含まれる数はGのどの置換でも不変(Gについて対称)で、逆にGのどの置換でも不変な数はKに含まれる。

うまいvを取ってα11(v), α22(v), …, αnn(v), とできるのだった。体の言葉で言うと、適当にvを取って K(α1,…,αn) = K(v) とできる。
vを解に持つ既約な方程式をfv(x) = 0とする。このときf(x) = 0が解けることと fv = 0が解けることは等しい。なぜなら

  • vが求まればそこから四則演算でα1,…,αnが求まる。
  • 一方、一つのαkが求まるなら全てのα1,…,αnが求まり(αkが求まるまでの過程全体についてαkをαlに置き換えるとαlの解法になるので)、α1,…,αnの四則演算でvが求まる。

なので。
fv(x)の次数は大抵f(x)の次数よりも大きいので問題を余計複雑にしたようにも見えるけど、fv(x) = 0の方が扱いやすい。

  • Kに含まれる ⇔ Gのどの置換でも不変 (Kの要素は対称性が高い)
  • vは、Gの元のうち恒等置換だけで不変 (vは対称性が低い)

なので、vを得るにはKに元を追加していき対称性を崩さないといけない。
Kに数を追加して(=対称性の低い要素を追加して)体Lを得たとき、Lを不変にする置換全体(=Lが持っている対称性)はGの部分群になる。
ガロア理論の基本定理により体と群は1対1に対応するので、方程式が解けるかどうか(=対称性をうまく崩していけるかどうか)は、Gにどんな部分群があるかで決まる。

ガロア群の部分群と方程式の関係

ガロア群Gに部分群Hがあったとする。Hで不変な数全体をLをおく。このときLは適当なβ ∈ K(v)をKに追加することで得られる(つまり L = K(β)と書ける)。

\begin{array}{cccc} & K(v) & \leftrightarrow & \{e\} \\ & \mid & & \mid  \\ L=& K(\beta) & \leftrightarrow & H \\ & \mid & & \mid  \\ & K & \leftrightarrow & G  \end{array}

このときvを得る方法として次のようなやり方が考えられる。

  • Kの数を係数にする方程式でβを解に持つものをg(x) = 0とする。これを解けばβが得られる。
  • βが手に入ったら、vを解に持つ方程式fv(x) = 0(これはK係数の範囲では既約な方程式だった)をK(β)の範囲で因数分解して、より次数の低い方程式f'v(x) = 0を作る(fv(x)の次数は|G|で、f'v(x)の次数は|H|。f'v(x)を解けばvが得られる。

こうするとfv = 0を解くことが、g(x) = 0とf'v(x) = 0を解くことに分解される(もちろんこの分解のされ方は部分群Hの取り方とβの取り方によって違ってくる)。
このうちf'v(x) = 0が解けるかどうかはガロア群Hによって決まる。この群はもとの方程式のガロア群Gより小さい。
一方、g(x) = 0 のガロア群Ggはどのようなものか。
ガロア群Ggは次のように決まる。

  1. g(x) = 0の全ての解をβ1(=β), …, βmとする。
  2. 適当な有理式φ1(x), …, φm(x)によって、β1 = φ1(w), β1 = φ1(w), …, βm = φm(w) とできるようなwを取る(つまり K(w)=K(β1,…,βm)となるwを取る)。
  3. wを解に持つ既約方程式gw(x) = 0からガロア群Ggが決まる。

ここで二つの場合がある。

  • g(x) = 0の解のうちβ以外の解β2, …, βmは、どれもβの有理式でかける場合(これはK(β) = K(β2) = … = K(βm) = K(β,β2,…,βm)となることと等しい)。
  • 上のようにはかけない場合。

実は部分群HがGの正規部分群だと一つ目の場合になり、正規部分群でないと二つ目の場合になる(これは「正規拡大な中間体と正規部分群は対応する」と言い換えられてガロア理論の基本定理の一部分になる)。

これが成り立つことのちゃんとした証明はしないけど、おおざっぱには次のようなことを考察する(別に理解する必要はない。正規部分群の説明もしていないし)。

  1. β2,…,βmがβの有理式でかける ⇔ K(β), K(β2), …, K(βm)が全て等しい。
  2. 任意の置換s ∈ Gについて、K(s(β))は K(β), K(β2), …, K(βm)のどれかに一致する。逆に各K(βm)は必ず置換のどれかによって K(βm) = K(s(β)) の形に書ける。
  3. x ∈ K(β) となる ⇔ どの置換 t ∈ H についてもt(x)=x となる(ガロア対応)。
  4. 任意の置換s ∈ G について、
    x ∈ K(s(β)) ⇔ どの置換t ∈ Hについても s(t(s-1(x)))=xとなる ⇔ どの置換t ∈ sHs-1についてもt(x) = xとなる
  5. 3と4より、K(β) = K(s(β)) ⇔ H = sHs-1
  6. K(β), K(β2), …, K(βm)が全て等しい
    ⇔ 任意の置換s ∈ Gについて K(β) = K(s(β))
    ⇔ 任意の置換s ∈ Gについて H = sHs-1
    ⇔ HはGの正規部分群

話を戻す。

場合1. g(x) = 0の解β2, …, βmがどれもβの有理式でかける場合(⇔部分群HがGの正規部分群である場合)

K(β) = K(β,β2,…,βm)となるから、ガロア群Ggを決めるための方程式gw(x) = 0としてg(x) = 0自身を取れる。
このときガロア群はGg = G/Hとなる。これは基本定理の一部になるけど、ちゃんとした証明はしない。概略だけ示す(群の知識を使っているので理解する必要はない)。

  1. Ggの各要素は(β,β2,…,βm)の置換を表しているが、置換はβをβ,β2,…,βmのどれに置き換えるかで決まる。
  2. Gに含まれる要素を一つ選んでそれによって置換をおこなうと、βはβ,β2,…,βmのどれかに移る。したがってGの置換を選ぶと、そこからGgの置換が決まる。
    つまりGからGgへの写像が決まる。
    ただしGの異なる要素がGgの同じ要素を決めることもある。例えばHに含まれるどの置換もβを動かさないので、Hのどの要素もGgの要素としては同じ置換(恒等置換)になる。
  3. 次が成り立つことが分かる:
    s1, s2 ∈ GがGgの同じ要素を定める ⇔ あるt ∈ Hがあって、s1(x) = s2(t(x)) となる。
  4. 3.はGg = G/Hということである。Hが正規部分群なので G/Hは群になる。

H \not=\{e\}なので剰余群G/HはGよりも小さな群になっている。
したがってガロア群がGの方程式f(x) = 0を解くという問題が

  1. ガロア群がG/Hの方程式g(x) = 0を解く。
  2. g(x) = 0の解βを使ってf(x) = 0を因数分解する。因数分解して得た方程式をf'(x) = 0とおく。
  3. ガロア群がHの方程式f'(x) = 0を解く。

という問題に分解することができる。

場合2. g(x) = 0の解β2,…,βmのうち少なくとも一つはβの有理式ではかけない場合(HがGの正規部分群ではない場合)

K(\beta) \not=K(\beta,\beta_2,\ldots,\beta_m)なので、K(w) = K(β,β2,…,βm) となるwをとる。
wを解とする既約方程式をgw(x) = 0として、gw(x) = 0の全ての解をw1(=w), w2,…,wlとする。
このとき次のようなガロア対応がある。

\begin{array}{ccc}  K(v) & \leftrightarrow & \{e\} \\  \mid & & \mid  \\  K(w) & \leftrightarrow & N \\ \mid & & \mid  \\  K(\beta) & \leftrightarrow & H \\\mid & & \mid  \\  K & \leftrightarrow & G \\ \end{array}
ただしこの場合はN = {e}(すなわちK(w) = K(v))の可能性もある。
このとき、
K(w) = K(w2) = … = K(wl)
となる(gw(x)の作り方から、どのwiについてもK(wi) = K(β1,…,βm)なので)。したがってNはGの正規部分群になり、ガロア群Ggは Gg = G/Nとなる。
ということは、初めからHの代わりに正規部分群Nを取ってβの代わりにwを取っておけば、場合1に帰着されてしまう。
結局、方程式が解けるかどうかを見るには、ガロア群Gの部分群のうち正規部分群だけを見ればいいことになる。

ガロア群の分解と可解性

まとめると次のようになる。
方程式f(x) = 0を解きたい。方程式f(x) = 0のガロア群をG、ガロア群を定める方程式をfv(x) = 0とする。f(x) = 0が解けることとfv(x) = 0が解けることは等しい。
ガロア群Gの部分群で(Gとも{e}とも異なる)正規部分群Nを見つける。すると

  • K係数の方程式fv = 0。ガロア群はG

は、

  • K係数の方程式g(x) = 0。 ガロア群はG/N。解の一つをβとする。
  • K(β)係数の方程式f'v(x) = 0。ガロア群はN

に分解される。

\begin{array}{ccccccc} & &  & & K(v) & \leftrightarrow & \{e\} \\   K(v) & \leftrightarrow & \{e\} & & \mid & & \mid \\   \mid & & \mid & & K(\beta) &  \leftrightarrow & N \\  K(\beta) & \leftrightarrow & N & \Longrightarrow &   & &  \\  \mid & & \mid & & K(\beta) & \leftrightarrow & \{e\} \\ K & \leftrightarrow & G & & \mid & & \mid \\ & & & & K & \leftrightarrow & G/N \end{array}

同様の分解を正規部分群がある限り繰り返していく。この分解は群だけを見ておこなうことができる。

べき乗根による拡大とガロア群の間には

  • ガロア群の位数(要素の個数)が素数ならべき乗根の添付によってその拡大を実現できるし、逆にべき乗根の添付で拡大した場合のガロア群は素数位数の群に分解できる。

という関係がある(説明は略す)ので、

  • ガロア群を正規部分群で分解していったときに全て素数位数の群まで分解されるなら、方程式はべき乗根によって解ける。
  • 素数位数まで分解できなければ、べき乗根で解けない。

という結論が得られる。