小田勝『読解のための古典文法教室』

タイトルの惹句に「大学生・古典愛好家へ贈る」とあるように、同著者の『実例詳解古典文法総覧』をベースに分量を絞って学習参考書的な内容にしたという趣きの本。『実例詳解古典文法総覧』が700ページを超えるのに対して、本書は250ページほど。
『実例詳解古典文法総覧』では引用している実例に対して訳が基本的に付いてなかったのに対して、本書では例題で引かれた文についてはほぼ全てに訳が付いている。(ただし例題以外でも多くの実例が挙げられているけど、それに対してはほとんどの文に訳は無い)。
大量の実例があげてあり、興味を誘うようなものも多く含まれているのも『実例詳解古典文法総覧』と同様。特に次の問題が面白いと思った。

次の和歌に句読点を打ちなさい。
① 川水に鹿のしがらみかけてけり浮きて流れぬ秋萩の花 (匡房集)
② 岸近み鹿のしがらみかくればや浮きて流れぬ秋萩の花 (匡房集)
(『読解のための古典文法教室』p.186)

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コンパクトと点列コンパクト

前に書いた「収束から始める位相入門」では、収束性をもとにして、位相概念「開集合」「閉集合」「開核」「閉包」「近傍」を説明した。
この流れでいくと「コンパクト」についても、点列コンパクトつまり

Xは点列コンパクト ≡ Xの点列は、収束する部分列を必ず持つ。

から説明したくなる。
けれど、コンパクト性

Xはコンパクト ≡ Xのどの開被覆についても、そこから有限個による被覆を必ず取れる。

と点列コンパクト性は、一般的には一致しない。
「フィルター」を導入すれば点列コンパクトとコンパクトの関係は見やすくなるけれど、今度は「フィルター」の導入コストがかかる。

※ フレシェが「コンパクト」という語を最初に導入した時点(1906)では、「コンパクト」の定義は点列コンパクトに近いものを指していたらしい。

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ホモロジーとコホモロジー

ホモロジーコホモロジーも図形の繋がり方を捉えるという点で似ている。それだけでなく、どちらの見方を取っても同じような量が得られる。

コホモロジー


※ 集合の包含関係(部分集合)の記号「⊂」に線がついた「―――⊂」は「⊂」と同じ意味。
  例えば「A―――⊂B」は、「A⊂B」と同じで、「AはBの部分集合」を表す。

(ホモロジーコホモロジーの関係については、「圏論入門としてのホモロジー」の「コホモロジー」の節も参照)

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収束から始める位相入門

位相の初学者向けの説明を収束中心に行っていくとどうなるかを考える。

森毅『位相のこころ』冒頭に収録されている解説的な文章「位相概念」は、「極限」「収束概念」から話が始まっている。この行き方について梅田亨『森毅の主題による変奏曲』

ここは、初学者にとっても、概念のさまざまな側面に触れることで、イメージが作りやすくできる実践的効果が巧妙に盛り込まれている箇所なのだ。
(梅田亨『森毅の主題による変奏曲 上』位相篇(1))

と述べる一方で、

そうは言っても、森さんの記述は、問題意識が根本的すぎて、初学者向きでないものを含む。……
実際、収束(極限)から話に入るので、夾雑物が多くて、誤解しそうなところもある。
(梅田亨『森毅の主題による変奏曲 上』位相篇(1))

としている。そこで、初学者向けでない夾雑物を除いて(ついでに問題意識もあまり持たずその点で意識を低くして)、収束から位相を説明していったらどうなるかを考える。

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楕円モジュラー関数 J(τ)とλ(τ)

魔王 ……… 私の妻を紹介しよう。あらゆる楕円関数とトーラスを闇から支配する楕円モジュラー関数J(τ)だ。 ……… 私λ(τ)と、私の妻とは、J=\frac{4}{27}\frac{(\lambda^2-\lambda+1)^3}{\lambda^2(\lambda-1)^2}という関係にある………
(難波誠『複素関数 三幕劇』)

複素関数 三幕劇』は、大学の教科書を除けばおそらく最初かその次くらいに手に取った数学書のはず。それまでほとんど行ったことのなかった市図書館の数学の棚で何となく手にとっただけで、そのときは数ページも読めなかったし、後になって時々借りてはちょっとずつ進めて最後まで目を通した後たまに借りることがあったけど、後半は部分的にしか理解できないままだった。本が閉架に移って借りることも少なくなっていたのだけど、いつの間にか(おそらく2017年のどこかで)図書館から除籍になっていた(他のいくつかの数学書も)。

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