学校を出よう!〈5〉NOT DEAD OR NOT ALIVE (電撃文庫)
- 作者: 谷川流,蒼魚真青
- 出版社/メーカー: メディアワークス
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学校を出よう! (6) VAMPIRE SYNDROME 電撃文庫 (0996)
- 作者: 谷川流,蒼魚真青
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- 作者: 竹本健治
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(ストーリーに対する介入や制御をおこなうメタレベルのキャラクタが登場したり、一度語られたストーリーとは別のストーリーが語られ直す、という点でいえば筒井康隆の『朝のガスパール』でもいいのだけど、そちらは思い浮かばなかった)
もちろん違いもあって、『学校を出よう!』で介入・改変をおこなう存在「インターセプタ」「インスペクタ」「アスタリスク」は上位世界、メタレベルの存在として設定されているけど、『ウロボロスの偽書』に登場する「アートマン」=原稿に書き加え(原稿の改変)をしている人物、と「ブラフマン」=マインドコントロール(記憶の改変)をしている人物、はメタレベルではなく同じレベルの存在である(正確には「アートマン」「ブラフマン」は仮説として設定されるだけで、明示的に登場はしない)。
谷川流はミステリ読者っぽいから『ウロボロスの偽書』も読んでいて多少影響があるのかもしれない(あるといいな)と考えた気がする。
その後「長門有希の100冊」に『ウロボロスの偽書』が入っているのを見たり、真偽は不明だけど『ウロボロスの偽書』は谷川流が新本格を読み出すきっかけになった本でかつオールタイムベスト3に入るらしいというのを知った。そうなると谷川流が『ウロボロスの偽書』を全く意識しなかったってことはないような気がしてくる。
とはいっても、どの程度の影響があるかのはよくわからない。それに『ウロボロスの偽書』の仕掛けのひとつである「語りの多重化」がもともと谷川流の嗜好や資質と親和的だったとも思える。
『ウロボロスの偽書』では殺人鬼の手記パート、竹本による身辺エッセイ風パート、芸者小屋での出来事を巡るパートに語りが多重化され、さらにそれらの語りへの改変・介入・侵食がおこなわれる。
一方、谷川流は『学校を出よう!』に限らず作品の端々に「語りの多重化」への嗜好がうかがえる。たとえば『涼宮ハルヒ』シリーズにおけるキョンの語り自体がそもそも多重化した語りになっている。作中人物としてのキョンはたいして本なんか読まないキャラクタとして設定され、一応はそれにそった語りをおこなっている。でも一方で、そういうキャラクタ設定に反したナレーションをちゅうちょ無くおこなう語り手でもある。
『涼宮ハルヒの憂鬱』冒頭の
宇宙人にさらわれてでっかい透明なエンドウ豆のサヤに入れられている少女を救い出したり、
(『涼宮ハルヒの憂鬱』p.6)
という語りがすでにジャック・フィニイ『盗まれた街』(これも「長門有希の100冊」に入っている)をふまえたものだし、
相も変わらず長門有希は定位置で土星のマイナー衛星が落ちたとかどうしたとかいうタイトルのハードカバーを読みふけり、
(『涼宮ハルヒの憂鬱』p.70)
というくだりにしても、表紙に書かれた『ハイペリオンの没落』の原題『The Fall of Hyperion』を見て勘違いしたというよりも(そもそも遠目から見て原題だけ目に入るのは不自然)、知っててそう言ってるんだろという感じがする。
他にも
テレーズ人形のようにちょこんと椅子に座ったメイドさんが草原のヒマワリのような笑顔で出迎えてくれた。安らぐ。
(『涼宮ハルヒの憂鬱』p.257)
それがもうあなた、異様に似合っていた。カエアン製かと思ったほどだ。
(『涼宮ハルヒの溜息』p.64)
まるでスティンガー対空ミサイルでジュピターゴーストを狙わせるような異例の事態になるなんてことにな。
(『涼宮ハルヒの憤慨』p.44)
俺は十九世紀半ばのヨーロッパを徘徊する共産主義のごとき姿のない妖怪を幻視して身体が冷えた。
(『涼宮ハルヒの憤慨』p.196)
みたいに、作中キャラクタの設定からすると変な(でも語り手キョンとしてはいかにもな)引用語りにも、多重化した語りへの嗜好・指向が見える。
キョンの単なるナレーションなのか実際に喋っているのか曖昧な語りもそうだし、『憂鬱』で長門、朝比奈、古泉のそれぞれがハルヒに対する異なる解釈を語るというのも、多重化した解釈≒多重化した語りの延長みたいに考えることができる。そういえばこれも真偽不明だけど『毒入りチョコレート事件』も谷川流のオールタイムベストに入っているらしい。
おのおの持ち寄った推理を『毒入りチョコレート事件』的に順番に披露し、最終推理者に内定している古泉が軽やかに激白する。
(『涼宮ハルヒの暴走』p.192)
「長門有希の100冊」でいえば、法月綸太郎『誰彼』、エラリー・クイーン『ギリシア棺の謎』、ロナルド・A・ノックス『陸橋殺人事件』とか。